05-14.元連隊長、カディールに帰還する
「いいえ、国王陛下。恐れながら、魔導学院に戻らなければ怪しまれてしまいます。私たちには任務がありますから」
宴を催そうというギスリム国王の提案に、イルマが口をさしはさんだ。
「そうか。そうであったな。緊急事態ゆえに、もしそなたたちが学院を退学ということになってもやむなしと考えていたが、今戻れば何事もなく済みそうであるか」
「おそらくは、そう思います。僕たち三人が遠距離転送を行えるほどの大きな門を作りましたから、その波動を感知した学院教師もいるかもしれません。そこは何とかライラス教師に口裏を合わせてもらいます」
「よかろう。ならば戻れ。サエコに一目会うくらいはさせてやりたかったのだが」
「いいえ。任務が優先です」
タモツはそう言って目を伏せた。
タモツは使い切った魔素を白魔導士たちに充填してもらい、再び新たな転送門を目の前に開いた。
「それでは国王陛下、失礼いたします」
「失礼いたします」
イルマとヴィーツがギスリム国王に向かって頭を下げて、転送門に身をくぐらせた。
タモツも日本式にお辞儀をして、二人の後を追った。
空間の揺らぎの中に身を躍らせ、自分の身体がゆがめられたような奇妙な感覚を味わったのち、タモツは錬金術師ライラスの研究室に転送されていた。
「ああ、君たち。心配したよ。問題は片付いたのかい?」
錬金術師ライラスは三人の顔を見て言った。
「ええ。俺の活躍でバッチリっすよ!」
ヴィーツが誇るように言った。
「まあそれは認めるけど、タモツの転送技術があってのことだったでしょ?」
「あの場にいたみんなの力だよ。もちろんイルマもね」
タモツは無難にとりなした。
「バルゴサがボルハン上空に落とそうとしていたのは、伝説の爆槍と同じもの、あるいはそれを模した劣化版だと思います」
タモツはライラスに言った。
「バルゴサという国は魔導をあまり重んじないと聞き及んでいますが、その開発にカディールが何らかの形で関わっていると思われますか?」
「爆槍だって!?」
緊急事態でボルハンに帰る、ということしか聞かされていなかったライラスは驚いたように言った。
「転送門を上空に開いて、空の彼方に転送したうえでヴィーツの火球で爆破したんです。本当に危なかったんですよ!」
イルマが言い添えた。
「爆槍の劣化版なり模造品だとして、確かにバルゴサにそんなものを作れる魔導士、あるいは組織があるとは考え難いな」
錬金術師ライラスは難しい顔をして見せた。