05-08.元特務隊長、防衛戦をする3
あくる日の朝、またバルゴサ軍の民兵たちが行進してきた。
ただ銃弾の雨にさらされて殺されるためだけに、整列した民兵たちは前へ、前へと進んでくる。
昨日とは人員を交代した右翼の第一中隊が機関銃を掃射してバルゴサ人を横なぎに薙ぎ払った。
銃弾を節約するために一斉掃射はせず、タイミングを見て交代で敵を制圧する。
合わせて小銃の発砲音が各所で鳴り響き、機関銃が仕留め損ねた人間を次々に狙撃した。
銃弾を有効に当てるためにはある程度引き付ける必要があるが、近い距離まで接近されることには恐怖が伴った。
白兵戦に持ち込まれれば、敵が振るう剣に対して銃剣を装着した小銃でどこまで対抗できるものか分からない。
そして、銃弾がどこまでもつのかも怪しかった。
このままだと民兵をなぎ倒すのに銃弾を使いつくし、敵の虎の子である竜騎兵との戦いを迎えるときには銃剣突撃しか武器がないということになりかねない。
「アガシャー王ってのは性急な性格だって聞いていたし、電撃戦を好むって話だったよな。てっきり竜騎兵ってやつを真っ先に蹴散らしたら敵軍の士気は崩壊して、それで片がつくんじゃねえかってそんなふうに思っていたぜ」
バイアラン駐屯地の営門に連結して作られた物見台から双眼鏡で前方を眺めながら、ハジメは持田に言った。
「バルゴサ人の商人たちがトラホルンにも駐留していましたからね。異世界自衛隊の噂や目撃情報がバルゴサ本国にも届いていたのでしょう。主に銃を使って戦うこととか、銃弾には限りがあるということとか」
ハジメはうなずいた。
「まあ、それはそうか。向こう側がこちらのことをどれだけ把握しているのか、こちらには把握しようがなかったしな。しっかし、庶民から集めた兵士を大量の弾除けにつかうってのはあり得るとは思っていたが、そいつらが一人も逃げ出さねえってのは驚いたよ」
「そうですね。よほど宗教的洗脳が行き届いているのか、何か薬品か魔導でも使っているのか」
「隊員たちの中にも、かなり心を折られた奴らが出始めているな。戦争神経症みたいなのを発症している者がいるようだ」
「精鋭を集めたはずの第5普通科連隊でもこれですからね。たしかにあれは神経にきますよ」
バルゴサの民兵たちには、なにやら常の人ではない、ゾンビでも相手にしているかのような気持ち悪さがあった。
「とはいえこっちに切り札はねえ。気分の悪い戦いだが、ひたすら続けるしかねえってことだな」
ハジメは言った。