05-06.元特務隊長、防衛戦をする
そして、地獄が始まった。
異世界自衛隊は、この日人が人を殺す戦いに身を投じることになったのだ。
バルゴサの軍勢は民兵を最前衛に配置し、竜戦士や竜騎兵を温存する形で兵を推し進めてきた。
「てえーっ!!」
前線指揮官の中隊長たちの号令によって小銃、機関銃の銃弾がバルゴサの民兵たちに降り注いだ。
志願してバイアランに配置されたはずの隊員の中にも、顔を青ざめさせるものはいて、中には吐いてしまうものもいた。
バルゴサの民兵たちはからくり人形ででもあるかのように、打ち込まれる銃弾の雨を恐れるようでもなく、ただ行進してくる。
申し訳程度に装備した小さな木の盾はさほど役に立っているとは言えなかった。
しかし、前列の仲間が屍となって倒れてもそれを乗り越えてくる。不気味に響くバルゴサ語の歌のようなものを口ずさみながら。
「クスリか何かを決めてやがんのか……」
最前線からもたらされた報告に、連隊長木下ハジメはうなった。
隊員が疲弊しないうちに中隊の配置を入れ替えつつ、射撃は続けさせている。
今のところこちらが一方的に敵を撃ち殺すだけの戦いだが、白兵戦に持ち込まれたら形勢は逆転するだろう。
イサからバイアランに続く道は隘路といって良く、大勢の兵士が横一列になって通れる道ではない。
そこにどれだけの屍の山を築けるかどうかでこの戦いの勝敗は決まると思われた。
(バルゴサの戦士は転生を信じて死を恐れないと言うが、集めた民兵を洗脳して、何か薬でもくらわして盾に使うってか)
敵の狙いは人間の盾によってこちらの銃弾を損耗させることにあるだろう。
異世界自衛隊の兵器の、その弾薬が無限ではないということはバルゴサの方でも調べがついているのだと思われた。
戦いの知らせがもたらされてすぐに、ハジメはカリザトとトラザムに伝令を飛ばしていた。トラザムへ派遣した伝令はイェルベ、イムルダールにもいくように伝えてある。
駐屯地の防御を薄くしてでも、こちらに人員と弾薬を回してもらうように伝達したのだ。
果たして増援が間に合うのかどうかは分からなかったが、バイアランが突破されればボルハンはまず落とされると思って良かった
縦横無尽に大地を駆け巡ると言われる百騎の竜騎兵相手に、トラホルンの槍兵3000がどこまで食い下がれるのかは極めて怪しい。
夕刻になって、敵は進軍をやめて後方に下がり始めた。
「今日のところはもうおしまい、ってか……」
守備陣地から数百メートル付近一帯に累々と広がった敵の屍をみつめながら、ハジメはひとりごちた。