05-05.格闘王、特務を与えられる2
「ディール山脈を越えて、イサに入る?」
岡崎も驚いてギスリム国王の顔を見た。
「そうだ。しかも、行軍は急いで行え。足手まといになる者が出たら途中で切り捨てよ」
ギスリムは顔色一つ変えずにそう言った。
「岡崎を隊長、ロトムを副隊長として500人のトラホルン兵を与える。アガシャーの首級を上げるのだ」
「し、しかし陛下……」
ボルハンのロトムは異議を唱えようとした。
「くどいぞロトム。この戦い、アガシャーを討ち取らなければ果てしなく長引く。敵にも味方にも大勢の死者が出るだろう」
「分かりました陛下。俺は特務隊の任務で辺境の深い森の中を歩いたことだってある。山岳地帯だって乗り越えて見せますよ」
岡崎はギスリムにうなずいてから、ロトムに言った。
「それに、この任務を達成すればトラホルンの王子として面目も立つ。ロトムは貴族の出身ではないし、俺なんかはなおのこと別世界の人間だ。王女様たちとの結婚に賛成していない国民だっているだろう」
「それは、その通りだが……」
ロトムもそのことについては認めざるを得なかった。当人にとっても、出自がさして良くないということと武人としての実績がまだ無いというのは悩みどころだったからだ。
ギスリムはニヤリとして岡崎を見た。
「物分かりが良くて助かる。バイアランで激突する自衛隊とバルゴサ軍の戦い、勝ち負けは五分と五分といったところであろう。しかも敵は最後の一兵まで突撃してくる覚悟だと見た。余としても自衛官の消耗は見るに堪えない」
「白魔導士に頼んで転送門というやつを開いてもらうことはできませんか?」
「ディール山脈の魔物討伐を命じたという名目で、そなたらを飛ばすことは正直考えたのだが、500人の転送は無理だな」
ギスリムは目をつむってそう言った。
「出発はすぐに? 兵たちはもうそろっているのですか?」
気を取り直して覚悟を決めたらしいボルハンのロトムが言った。
「精鋭500人を選りすぐり、武器と食料などもそろえてある。明日の朝からボルハンを北上せよ。バイアランは経由せずに向かうのだ。バルゴサは魔導に熱心な国ではないはずだが、そちらには魔導の目が向けられているかもしれぬ」
「進軍はボルハンの北からディール山脈に入り、この線の通りに進む。道案内はディールで狩猟をしている男二人をつける。連絡のために黒魔導士を一人つけるが、この者は戦いに参加させずに優先的に守れ」
テーブルの上に広げられた羊皮紙の地図を見つめながら、ギスリム国王は言った。