05-04.格闘王、特務を与えられる
戦争開始から7日前のことであった。
「よく来た、我が婿ふたりよ」
謁見の間ではない応接室で、岡崎チヒロとボルハンのロトムはトラホルン国王ギスリムを前にしていた。
「まあ、そんなにかたくなるな。義理の父と息子という間柄ではないか。とはいえ歳は少々近いがな」
ギスリム国王は機嫌良さそうにそう言って笑った。
「お義父さま、っていうのもなんだか変な感じですね」
「陛下に対してそのような口利き、臣下としてはばかられます」
「他の者がいないところではギスリムで良いぞ」
「はあ……」
「あ、いえ。わたくしはとてもそのようなことは」
岡崎とロトムが落ち着かなげにもじもじしているのへ、ギスリムは構わず言った。
「そなたら両名を召喚したのは他でもない。近日にバルゴサはイサからバイアランに向かって南進する」
「!! 戦争が始まるっていうことですか?」
「そうだ。イサにはつねに魔導の目を向けてある。バルゴサは民兵をかき集めて兵の頭数を増やしたようだ。バルゴサの首都ヌーン・バルグに放った密偵からも、竜騎兵が王と共にイサを目指して出立したという知らせが届いている」
「竜王自らが動いた……。親征、ということになりますか」
ボルハンのロトムは息をのんだ。バルゴサはこの戦争に国の命運をかけるつもりであるらしい。
「威信をかけて全力で、それこそ後先など考えずに攻め立ててくるつもりであろうな。生半可に撃退しただけで兵を引くとも思えん。兵の消耗も恐れずに我が国を取りに来るのだろう」
ギスリム国王は面白くもなさそうに、ふん、と鼻をならした。
「アガシャーもさすがに最前線で自ら戦いに身を投じることはすまい。おそらくイサに陣取ってそこから前線指揮官に指示を出すはずだ」
「なるほど?」
岡崎は話の成り行きが見えないまま、そのことについては納得した。
「そなたらに与える任務は、自衛隊とバルゴサ軍がバイアランでぶつかり合っている間にアガシャーの首級を上げることだ」
「!!?」
ボルハンのロトムが息をのんで、思わず立ち上がった。
「陛下! 敵軍のただなかを縫って本陣にたどり着くなど、それは不可能でありましょう!」
「イサからバイアランの間は山岳と丘陵にはさまれた一本道。そう申すのだろうな」
ギスリム国王はボルハンのロトムの顔をまっすぐに見上げた。
「兵を率いて北方のディール山脈を越えよ。そしてアガシャーの本陣を急襲するのだ」