05-03.元特務隊長、戦いに臨む
そして、唐突に戦争は始まった――。
木下ハジメ1佐がバイアラン駐屯地の第5普通科連隊長に着任してわずかにしかならないその日、トラホルン王宮を通じて最前線に、
<バルゴサ軍が南進を開始した>
という知らせが届けられた。それからやや遅れて、方面からも戦争が開始されたという知らせが届いた。
「いよいよか!」
ハジメは戦慄と興奮を覚えていた。
ハジメの前任者である南原1佐が駐屯地司令として臨時の駐屯地朝礼を開き、隊員たちに戦争開始の事実を告げた。
バルゴサ軍の歩兵の進軍速度から考えて接敵は三日後と思われる。
「敵の部隊数はおよそ2万。民兵を招集して部隊を増強している模様だ」
2万……。
戦国時代の日本などと比べてもその数字は決して多くはないが、異世界自衛隊の頭数に比べると圧倒的な数字である。
バイアランの防衛部隊が、第5普通科連隊を中心に2000人。南から側面を突く予定の第3普通科連隊が1200人。
頭数だけを比較すれば7倍の戦力であった。
味方にはこれに加えてトラホルンの槍兵部隊が3000人招集可能だと言うが、銃弾が飛び交う戦場では正直邪魔になるので後方の予備兵力として待機していてもらうことになっていた。
「銃弾がもつのか、果たして?」
自衛官たちの頭に浮かぶ不安はそれであった。全駐屯地からかき集めた銃弾の総数がバイアランに3万発、カリザトに2万発。
各駐屯地にも魔獣などの出現に備えて最低限の武装は必要であったから、これがギリギリの数である。
駐屯地のそばに何かの気まぐれで転送されてくる自衛隊装備は、こちらの望むものを望むタイミングで送ってくれるわけではないのだ。
戦争が不可避となってからもポツポツと何かがときどき転送されてきてはいたが、銃弾の数が急に増えたりはしなかった。
乾電池の入っていない懐中電灯だったり、充電されていない携帯無線機のバッテリーだったりという外れも多かった。
「下手をすると、噂の竜騎兵相手に銃剣突撃なんていう状況もあり得るかもな」
地竜というものの実物をハジメは見たことがなかったが、かつて倒したことのあるドラゴンの小型版なのだろうと思っている。
百竜隊とも呼ばれる竜騎兵の軍団が、本当に百騎いるのかどうかは別としても、一斉に突撃してきたら相当な恐怖を隊員たちに与えるであろうことは想像に難くない。
(勝てるのかよ、この戦い……)
ハジメは内心でそう思ってしまったが、思い直した。
「いや、勝たなくちゃならねえんだ。なんとしてでも」