05-02.元特務隊長、守備隊長に就く
異世界自衛隊第五の駐屯地であるバイアラン臨時駐屯地は、トラホルン王国の北東部、王都の北東方向に存在している。
きたるべきバルゴサの侵攻に備えて急ごしらえで設立された駐屯地であったが、建設開始から3年半を経て防御陣地および、駐屯地としての機能はほぼ完成していた。
北方を山岳地帯に守られ、南方に広がる丘陵地帯を望み、イサへと続く東方のルートに警戒方向は絞られている。
全駐屯地から招集された志願者で構成された隊員たちはみな一様に士気が高く、主力部隊である第5普通科連隊の人員は特に戦意の高い人間で構成されていた。
前任者の南原1佐から部隊を引き継いですぐ、ハジメは連隊朝礼で隊員たちの顔を見渡すことができた。
(どいつもこいつもいい面構えをしていやがる。バルゴサの兵士を小銃で撃っちまったからってピィピィ泣きわめくようなヤワな連中ではなさそうだ)
最前線で人と人との戦いが行われるとなれば、拒否感を抱くものだって異世界自衛隊にはいるだろうと思われた。
魔獣や化け物相手の戦いでは泣き言ひとつ言わないような奴でもだ。
ハジメはもちろんリアルタイムでは知らないが、現実世界の自衛隊でもイラク派遣の際には義のない戦争に加担するのは嫌だと表明した自衛官の数も少なくはなかったと聞く。
トラホルンは攻められる側であってイラクに侵攻したアメリカの立場とは違うものの、
「自分は祖国防衛のために自衛官を志したのであって、他国の戦争に加担したくはない」
という考えだって、それはそれでありだろうとハジメは思っている。
「バルゴサは我々の同盟国トラホルンを併呑したのち、新日本共和国の領土であるイェルベ川西岸も飲み込む構えだ」
ハジメは着任の挨拶で、みなの顔を見渡して言った。
「それに、俺たちの国である新日本共和国はまだよちよち歩きの赤ん坊にすぎねえ。食料から何から、トラホルンからの供給なしにはなにも立ちいかねえ状態だ。トラホルン王国は我々の生命線であり、ここバイアランがその防衛線だ。ここが落ちればトラホルンの王都ボルハンは容易に落とされてしまうだろう。もうすでに、みんなにもわかっている話ではあると思うけどな」
隊員たちはハジメの訓示を<整列休め>の姿勢で黙ってじっと聞いている。
「バルゴサがいつ攻め込んでくるのか分からねえ中で士気を保つのは大変だと思うが、交代で休みつつ部隊全体としては常に気を抜かないように心掛けてほしい。ここにいる諸官らが、新日本共和国とトラホルン王国の守護神だ! 以上、着任のあいさつに代えて訓示を終わる」
ハジメは話を締めくくった。