05-01.元特務隊長、任期を終える
新日本共和国初代大統領だった木下ハジメは、四年間というその任期を終えた。
振り返ってみれば、これという大きな成果をあげることはできなかった気がする。
「建国を成功させたっていうだけで十分な成果じゃないですかぁ」
と、ファーストレディではなくなった妻のカナデが夫をねぎらった。
「後のことは、森本モトイさんがなんとかしてくれますよぉ」
「まあ、そうかもしれねえがよ」
大陸の各国に建国宣言をしてみたものの、カディールは反発しながらもしぶしぶ認め、バルゴサとバルゴサの事実上占領下にあるイサからは新日本共和国を国家として認めないという返答を受けている。これが成功したと言えるのかどうかも微妙であった。
新日本共和国内、およびトラホルン王国内においてハジメの人気は絶大であったから、ハジメ自身が任期の継続を望めば再選は確実であっただろうが、ハジメはそれを望まなかった。
「大統領を辞めたあと、タイチョーはこれからどうするんです?」
と、半年ほど前にカナデから質問されたものだった。大統領職を継続するつもりはないと妻に明かした日のことだった。
「とりあえず自衛隊に復帰して、どこかの部隊の連隊長にでもしてもらうさ。階級そのままで復職できるならな」
「方面に確認してみますけれど、おそらく問題ないんじゃないでしょうか。<竜殺し>を有効に使いたいでしょうし」
結局、ハジメは1佐として前線指揮官に復帰して、バイアランの第5普通科連隊長を任されることになった。
「四年のブランクがある人間にずいぶんと大任を与えたものだな、おい」
ハジメはカナデの前ではそう言ってみたものの、異存は全くなかった。
バルゴサのアガシャー王が南下してくる。
バルゴサとトラホルンの緩衝地帯であったイサを支配下におさめて、そこに兵士を駐屯させているという情報は3年前からあがっている。来るとしたらいよいよだろう、とハジメは踏んでいた。
バルゴサは兵力増強の時間稼ぎと、背後に迫っている食糧危機とを秤にかけて進軍の時機をうかがってきた。
ハジメは何度かバルゴサの竜王アガシャーに向けて親書を送ってみたが、そもそも新日本共和国を国家とは認めないというのがバルゴサのスタンスであったから、それらはことごとく無視された。
トラホルンの国庫から食料の人道的支援を行って戦争を回避できないか? ということをギスリム国王に提案しても見たが、それはにべもなく却下された。