04-19.元連隊長、協力を仰ぐ3
魔晶石強化の研究が始まった。
錬金術師ライラスは、自身でもすでに魔晶石に込められた力を強化する方法論については研究をしていたということだった。
ただ、理論は立てることができても自分自身ではそれを実現することはできなかった。
「いつもの奴っすね。先生、魔導の力さえ備わっていたら今頃大錬金術師だったのに」
口さがないヴィーツがずけずけとそう言った。
「ちょっと、ヴィーツ!」
イルマが思わずヴィーツの頭をげんこつで横殴りにたたいた。
イルマより2歳年下でもうすぐ13歳になるヴィーツは、すでにイルマの身長を追い越しかけている。
大して痛くもないだろうに、ヴィーツは大げさに痛がってみせた。
「まあ、事実だから言われても仕方がないな。僕は理論は立派なんだよ」
ライラスは苦笑いをしてみせた。
「魔圧と魔流量、それから蓄魔量それぞれの強化は別というところまではお聞きしました」
タモツが話を元に戻すために言った。
「うん。一応念のために繰り返しておくけど、魔晶石に込められた魔素の強さは、基本的に作られた時点で決まってしまう。魔素の密度が高ければ、そこに込められた力の強さが強くなる。これを僕は仮に魔圧と名付けている」
「火球の術を込めたときに、火の大きさが変わってくるということっすよね?」
とヴィーツが言った。
「大きさより、むしろ炎の温度が顕著に違ってくるかな。それにより火力が変わってくるだろう」
ライラスは答えた。
「もう一つの魔流量というのが炎の大きさを決めるということになりますか?」
「そうだね。一気に放出できる魔力の大きさ。どれだけ広範囲に影響させたりできるか、どれほど大きなものを動かせるか」
「蓄魔量というのは、その魔晶石がどれだけの魔力を蓄積できるかということですね?」
イルマが一応確認する、という感じできいた。
「そうだね。それら3つの要素は基本的に作成された時点で性能が決まってしまう。それをどうにか強化できないか? というのが僕の課題の一つだったんだ。まあ、ヴィーツにも冷やかされた通り自分自身では実験すらできなかったんだけれどね」
「具体的にはその強化というのはどういう風に行うのですか?」
「二つの魔晶石を融合させる、という方法を考えていた」
「融合、ってなんすか?」
「溶け合わせて一つにする、ということさ。基本となる魔晶石の中にもう一つの魔晶石を溶け込ませる」
「もしそれで魔晶石をどんどん強化できるなら、時間と魔素さえあれば無限に強い魔晶石を作れますね」
「うーん……。そう、うまくはいかないと思う。魔導士ギルドの地下にある巨大な魔晶石を超えるようなものにはならないんじゃないだろうか。作られたときの純度や精度が高いものを、つぎはぎだらけのものが上回ることはできないとみているんだが」
錬金術師ライラスは言った。