04-18.元連隊長、協力を仰ぐ2
「その<専守防衛>という理念は非常に気高く聞こえるが、実際にそれを維持することは可能なのかい?」
攻めるような口調ではなく、純粋な疑問として錬金術師ライラスは口にした。
「トラホルンと新日本共和国はいまや運命を共にしているほどの同盟国だと聞いている。トラホルンはバルゴサとの紛争地帯であるイサを自国の領土だと主張しているから、仮にバルゴサの侵攻を撃退したとしたら、イサを取るために動くのではないかな?」
「イサは歴史的にトラホルンの領有ですよ。バルゴサの顔を立てて中立国という形でイサを立てて、支援してやっていただけで」
ヴィーツが反感を覚えたように言った。
「それはあくまでトラホルン側の主張にすぎないだろう。肩を持つわけではないけれど、バルゴサにはバルゴサの主張もあるだろう」
ライラスは静かに言った。
「トラホルンがイサを<自国領土の奪還>という名目で攻めるとき、新日本国、異世界自衛隊はそれに協力せざるを得ないんじゃないか? あるいはバルゴサが再度侵攻してこないように徹底的に叩くのを、国土防衛の延長だと主張するかもしれない」
「それは、たしかにそうかもしれません……」
タモツは認めた。
「先生は、魔晶石の技術が侵略戦争に使われるのであればこれ以上の協力はしたくない。そうおっしゃりたいのですね?」
イルマがライラスの顔を覗き込んで言った。
「正直そういう気持ちもある。迷っているよ」
ライラスはイルマのほうに向きなおって言った。
「先生、トラホルンの味方じゃなかったのかよ」
ヴィーツが不平のようにそう言った。
「僕はトラホルン王国の味方というわけじゃない。しいていえば君たちの味方のつもりだよ」
「おっしゃることは分かると思います。自分たちが魔晶石で動かした戦車が戦争で敵を蹂躙し、あまつさえ侵略に使われる。そのことに僕たち自身が傷つかないかと心配なさってくれているのですね?」
タモツは確認した。
「そう、だね。僕が一番懸念していることはそこかな。魔晶石の強化についてはできる限り協力しよう。しかし、それがどのような悲劇をもたらすとしても、それは君たち自身が受け止めなくてはならないことだよ」
「その覚悟はあります。僕はもともと軍人でしたし」
タモツはうなずいた。
「俺はトラホルンのためになることならなんでもするし、後悔なんかしないけどな」
単純明快に、ヴィーツは言った。
「私はどんなことをしてでも自分の身柄を買い戻して自由になると誓いました」
イルマは静かにそう言った。