04-17.元連隊長、協力を仰ぐ
翌日の昼休み、中庭でタモツはイルマとヴィーツに国王からの命令を達した。
「その戦車っていう鉄の獣を動かす魔晶石を作れっていうのか?」
王都ボルハンから出たことのなかった孤児出身のヴィーツは戦車の実物を見たことがないという。
「わたしは家がまだ裕福だった時代に、カリザト駐屯地の近くで見たことがあるわ。あれは何? って父に聞いたのを覚えている」
燃料が確保できないために陸上自衛隊車両はこの世界に転送されてきても、ただ放置されて雨風にさらされて朽ちていくだけであった。
ごくごくまれには、ヘリコプターなんてものも転送されてくることがあったが、もちろんこれも同様に放置された。
解体して鉄でも回収できれば鍛冶屋などに売れそうなものだったが、電動カッターや溶接道具などもないために解体も無理であった。
「あれを魔晶石で動かしてバルゴサの竜騎兵にぶつけるというのね?」
「国王陛下はそうお考えのようだ。果たしてできるのかどうかわからないけれど」
「理屈ではできる、と思う」
イルマは考え深そうにそう言った。
「もしそんな鉄の化け物が動き出してバルゴサの竜騎兵を打ち破ったらすげえな」
ヴィーツは少年らしく興奮して言った。大きなもの同士のぶつかり合いというものに興味をひかれるのは、かつて怪獣映画などに興奮した男の子だったタモツにも心情がよくわかる。
「ライラス先生に相談してみるしかないと思うけれど、魔晶石を兵器に転用するということについて先生がどう思うかな。それに、私が作れる大きさの魔晶石で、あの巨大な鉄の塊を動かせるほどの魔力の圧を発揮できるかどうか、それに動力の持続時間の問題もある」
イルマは言った。
その日の授業が終わった後、三人は錬金術師ライラスの研究室を訪ねた。
戦車の動力にするということを伝えずに魔晶石の強化法だけ聞き出せばいいじゃないか、とヴィーツは言ったのだが、タモツとイルマは反対した。協力を仰ぐなら事実は包み隠さずに話すほうがいいだろうという判断である。
「……というわけで、異世界自衛隊が保有する戦車という巨大な鉄の機械を、魔晶石を使って動かしたいのです」
「なるほど」
ライラスは話を理解してくれたらしく、しばらくの間考えこんでいた。
「異世界自衛隊、および新日本共和国は<専守防衛>という理念を掲げていて、侵略戦争には加担しないと明言しています」
「誰かが攻め込んできたときに、国土を守ることだけに武力を使うということだね。立派な理念だと思う」
ライラスはうなずいた。