04-16.元連隊長、報告する2
(その魔晶石、からくりの動力にすることができると言っておったな)
ギスリム国王は並々ならぬ興味を示して続けた。
(風のない日に風車を回して、粉を引かせることもできるのではないかと)
(はい。まだ実験したことはありませんが、イルマが錬金術師ライラスからそのように聞いております)
(それは、おおいに使い道があるのではないか?)
(と、申しますと?)
(自衛隊の戦車だ。あれを魔晶石で動かすことができないのか?)
(!!)
タモツは不覚にも、それについては考えたことがなかった。
いや、ほんの少しも脳裏をよぎったことがないかと言えば嘘になるかもしれない。
しかし、あまり本気で考えてはいなかった。
(余は王子の時代にカリザト駐屯地の周囲に放置された、あの鉄の獣を直接目にしたことがある。燃える水が足りなくて動かないのだと聞いて大変残念に思ったものだ)
ギスリム国王はそう念じた。
(きたる戦いに備えて、こけおどしのためにカリザトとバイアランの間にある丘の上に三台の戦車を並べてはある。自衛隊の者たちが丸太とロープを使って移動させたのだ。トラホルンの白魔導士にも浮遊の魔導を使って協力させたがな。その光景は直接見たパバールから念像によって送られてきたものを私も見ている)
(念像……。言葉ではなく見たものを送る高度な術式ですね)
(そうだ。あれはなかなか圧巻の光景だった)
(動かない戦車でも、確かに少しだけ敵をひるませることはできるかもしれませんね)
(だが、しょせんはこけおどしにすぎん。あれが実際に動き出せばどうだ? 巨大な鉄の獣が敵を一方的に蹂躙する。バルゴサの竜騎兵とて、ものの数ではないだろう)
ギスリム国王は心の中で笑い声を立てた。
(戦車の動力となるべき魔晶石の研究を命じる。急ぎでだ)
ギスリム国王は強く念じてきた。
(承知、いたしました)
タモツはややためらいがちにそう念じた。
(研究が成れば、我々は卒業を待たずにトラホルンに召還されるのですか?)
(それは今考えておった。カディールの国情を探るという当初の目的は果たされておらぬからな。潜伏に向く資質を考えるとイルマになるだろうが、魔晶石の生成に秀でたのもイルマとなると、どうしたものか……)
(はい)
(それはのちに改めて決める。タモツ、お前は戦車に詳しいと聞いている。お前自身がイルマから魔晶石の生成術を学んでトラホルンに帰還してくれるのが余としては一番ありがたい)
(はっ。力を尽くします)
タモツはそう念じた。ギスリム国王が他の誰かと話し始めたようだったので、それでタモツは念話を打ち切った。