04-11.元連隊長、調査する
望星教団、というカルト宗教らしき組織の存在を知ったタモツは、聞き込みの切り口を変えることにした。
老乞食が言うには中枢は秘密結社的な組織だということだったが、信者からお布施を集めている以上布教や勧誘はしているはずだった。
タモツはまず、錬金術師ライラスに教団のことを何か知らないか確認してみた。
「ああ、知っているよ。この学院で昔問題になったことがあってね」
あっさりとライラスの口から新情報を聞くことができた。
「生徒の一人がその教団にかぶれて、学院内で布教活動や勧誘を始めてしまったんだ。それで数人の生徒がかぶれた」
「その生徒たちはどうなったのですか?」
「最初の一人は狂信的な信者になってしまって、学院の授業にいちいち反発をしたりしていたな。学院の備品を盗み出そうとしたかどで結局退学処分になった。勧誘された他の生徒たちは校長が諭して教団を脱退させた。10年くらい前の話になるのかな」
「そうだったんですか……」
「それ以来、この学校では望星教団と生徒の接触を警戒している。信仰の自由は一応保証しているとはいえ、あそこはちょっとマトモじゃないからね」
「と、いいますと?」
「何と言ったらいいのだろう。そこの信者になった生徒たちは、自分が特別な存在になったかのように考え違いをして、傲慢な発言をし始めたり、何かが狂い始めるんだ。学院が考える常識がだんだん通じなくなる」
「はあ。なんとなくは、わかります」
タモツは前世の昔、現実世界で連隊長をしていたときに、いわゆる「自己啓発セミナー」というものに耽溺した隊員を部下に持ったことがあった。異様に目をキラキラさせて、自分の人生の成功が確約されたかのように調子づいて、そのくせやることなすこと迂闊で、言動があやしげであてにならない感じだった。
その隊員はそのセミナーに500万円以上の大金をつぎ込み、最終的には自殺してしまった。
セミナーに通い始める前は部隊になじめずに悩んでいたようだったから、仕事時間外に充実した時間を過ごしているのだろうかと考えていたのだが、ことの結末にタモツは自分自身の目配りの行き届かなさを痛感したものだった。
そういうカルト的な組織にはまり込んだ人間はなにかしら人生の「一発逆転」を狙うような発想に陥るものらしい。
その宗教に帰依すれば、あるいはセミナーで学べば、今までの不遇だった人生がチャラになり、自分が実は選ばれた人間だったということが証明される、というような幻想にすがりついてしまうのだとタモツは分析していた。
タモツ自身は、人生は地道な努力の積み重ねで出来るものだと考えているし、人を作るのはなにより習慣であると認識している。
何か自分の身に降ってわいたような特別な出来事が起きて、それで人生が大逆転するなんてことを本気で夢想したことは無かったと思う。
とはいえ、どういうわけか異世界転移や同世界転生などという不思議な現象に見舞われてしまい、タモツ自身が胸に抱いていた人生訓とは裏腹に、タモツ本人はなにやら特別な存在になってしまったのであったが……。