04-10.元連隊長、手掛かりを探す2
「望星教団という組織の本部はどこにあるのですか?」
タモツは老乞食に尋ねた。刈谷ユウスケが潜伏していた先としては、あり得る気がしていた。
老乞食は言いにくそうに上目遣いでタモツを見上げた。
「……」
タモツは意図を察して、皮袋から銅貨を1枚とりだして乞食に差し出した。
乞食はそれをあえて受け取らず、じーっとタモツを見つめ返してくる。
「ああ、もうっ、わかりましたよ!」
タモツは銅貨を引っ込めて、代わりに銀貨を1枚老乞食に押し付けた。
「うひゃひゃひゃひゃ」
乞食の老人は愉悦の笑いを浮かべていたが、すぐに真面目な顔をしてタモツに言った。
「ターレン山のふもと、ヴォラフ村に望星教団の総本部はある。ワシはかつて熱心な信者としてそこで修行を積んでおった。まあ、今思い返してみれば無駄だったがな。ワシは教団内で一人の女と恋仲になったが、その女が教団のありかたに疑問を抱いてな。二人で手を取り合って組織を逃げ出したのじゃが、女は捕まった。おそらく殺されてしまったのだろう。ワシだけがおめおめと今も生きておる」
「そのような危険な組織なのですか? 教団はいったい何を目指していて、どんな教義なのですか?」
「ありうべき未来を占い、世界を正しい姿に導くということをうたっておったよ」
歯の半分抜けた老人は、ふにゃふにゃした声でそう言った。
「究極の目標は、太古の女神アルカディオンをこの世に顕現させるということじゃった。これは教団の中枢にかかわった女から聞いた話だがね。そのためには生贄を捧げることも厭わないという話を聞いてワシは慄然としたものじゃ」
「アルカディオン……?」
「カディールの国名と語源を同じくする名じゃが、実在の人物だったという学者もいるようじゃな。いずれにしてもおとぎ話じゃとワシは思っている」
(太古の女神を復活させるために生贄をいとわないというカルト教団……か)
偶然つかんだ情報が実際にどこまで刈谷に関係しているかは分からないが、調べてみる価値はありそうだとタモツは思った。
「その女神をもし復活させたとして、どうなるというのでしょうか? 望星教団は、あるいはヌワージという人物は一体なにを望んでいるのですか?」
「さあて、なあ。ワシにはそこまでは分からん。なにぶん20年も前に教団を足抜けした身だから細かいところまでは覚えておらんし、ワシ自身は教団の中枢にいたわけではないからな。ワシが話せることはこんなところじゃよ」
老人はそう言って話を締めくくった。