04-09.元連隊長、手掛かりを探す
錬金術師ライラスの研究室にイルマやヴィーツと通いつめる一方で、タモツは主に休日の昼間や授業が終わった後の夜の短い時間を使ってカディッサ市内を探索し続けていた。
学院に報告している名目上は「自分が生まれる前に失踪した伯父を探す」ということにしてある。
探しているのは刈谷ユウスケの足取りである。
刈谷ユウスケが死の直前に叫んでいたヌワージという単語はおそらく人物の名前で、カナデによればカディール人の名前ではないかということだった。
「自分のような顔つきをした、異民族の男を見かけたことはありませんか? 祖母がどうしても死ぬ前に会いたいと言っているんです。ヌワージという人と知り合いみたいなのですが」
イルマがもっともらしくこしらえた作り話の通りに、タモツはカディッサの様々な場所で聞き取りを行っていた。
暗黒街にも足を運んでみたが、そんなところに10歳の子供の嘆願にまともにとりあってくれるような親切な人間がいようはずもなかった。みな、一様にハエでも払うかのような態度でタモツを追い払った。
誘拐されそうにならないだけマシか、とタモツは諦めて帰ろうとした。
「のう、ぼうや。銅貨一枚でいいから恵んではくれないかね」
薄い木の板を石畳のうえに敷いて座り込んでいる、ひどくやせこけた老乞食からふいに声をかけられた。
タモツは周囲を見回して、他の乞食がいないかどうかを確認した。
同業者がいる場合、一人にあげてしまうと猛烈な勢いで他の乞食たちにも言い寄られてしまうことになりかねなかった。
「銅貨一枚でいいなら」
タモツは貨幣を取り出して指でつまみ、丁寧に乞食に向かって差し出した。
「おお、おお。ありがたいことじゃ」
老乞食は平伏して礼を言ったが、タモツは慌ててやめさせた。
「いいんです、普通にしていていください。他の乞食の人が寄ってきたら困ります」
「そうかね」
老乞食は半分歯の抜けた口元をニターっとゆがめて笑って見せた。
「ところでぼうや、お前さん人を探しているようだったね。先ほどそこで通りすがりの男に話しかけておったが」
「はい。僕が生まれる前に居なくなった伯父を探しています。ヌワージという人と一緒にいたみたいなのですが」
「望星教団のヌワージ導師のことかね、それは」
「ご存じなのですか!?」
「ヌワージという名前はカディールではありふれているから別人かもしれんがな」
「望星教団、とはなんですか? ヌワージ導師というのは指導者ですか?」
「秘密結社、というか宗教結社じゃよ。ワシはかつてそこにいたが、逃げ出してきたのじゃ」
歯が半分ない老乞食のカディール語はやや聞き取りにくかったが、話す内容はハッキリしていた。
「教団内部では導師のことを<星を見るひと>と呼んでおったな。導師は未来を予見できるとされていた。今となっては本当のことだったかどうかワシにはわからんがな」