04-08.魔導少女、錬金術を学ぶ7
錬金術師ライラスはイルマの顔を見つめなおし、さらに続けた。
「ひとつには綺麗で魅力的な女子生徒に親しくされて気をよくしたから、ひとつには故国トラホルンへの郷愁とかつての思い出のため。最後にもうひとつあるんだけど……」
「なんですか?」
「単純な話だよ。自分が半生をかけて密かに研究してきた成果を、ただ誰かに引き継ぎたかった」
ライラスは笑って言った。
「魔導を込めた魔晶石を実際に自分では作ることができなかったから、こんな僕が研究を発表しても誰も取り合ってくれないのさ。黒魔導士にでも身を落として暗黒街で何か悪いことをする人たちに技術を伝授すれば重宝がられるかもしれないけど、知識を奪われた後には殺されてしまうんじゃないのかな」
「ご自分一人きりでずっと研究なさっていたんですか?」
「うん。僕の魔力は弱いから、石に少しずつ蓄積しておけたらもっと大きなことができるんじゃないか? そう思ったのが始まりだよ。古代国家では魔晶石はありふれたもので、通貨の代わりに使われてさえいたらしいんだ。自分の手でも作れるんじゃないかと思ってね」
ライラスは少し自嘲するように言った。
「ところが魔素をなんとか結石できたのがせいぜいで、何度試しても術式を封じることはできなかった。理論上はこの方法でうまく行くはずだと確信していたんだが、理屈が間違っているのか自分の能力の限界なのかが長年判らなかった。ある意味、君たちを実験台に使って確かめたんだ。結果としては自分の理論は正しかった。代わりに、僕の能力の限界も証明されたわけだけどね」
「そう、だったんですか……」
イルマは何と言っていいか分からなかった。
「先生、この先に万が一ですけれど、私たちが魔晶石を悪用……あるいは悪用はしないまでも、カディールの不利益になるような使い方をするとしたら、先生のお立場は悪くなるんじゃないですか?」
「魔導士の制約をかいくぐってかい? つまり、バルゴサとカディールが正式に軍事同盟を組んだ場合などだね」
ライラスは少しの間考えた。
「わからないな。僕の立場なんて今でもさして良くはない……なんていうとナーセル教頭に怒られてしまうか。気にすることは無いよ。僕はただ生徒に自分の研究結果を託しただけなんだから」
「わたし、先生から託された技術を有効に使います。私は父の借金のカタに身柄をトラホルン王宮に買い上げられているんです。近い将来にきっと自分自身を買い戻します」
イルマはライラスを見つめてそう言った。