04-07.魔導少女、錬金術を学ぶ6
「ところで、今日はどうしたんだい? 訓練をしたいならそこで自主的にやっていいよ」
ライラスは古代文献のページをめくり、読書を続けながらイルマに言った。
「それもあるんですが、気になっていたことがあって聞きたかったんです」
「なにを?」
ライラスはキリのいいところまで読み終えたのか、書物から目を上げてイルマのほうを見た。
「先生は、どうして私たちに重要な研究成果を教えてくれたんですか? 魔晶石の生成の仕方についてです」
「ああ、そのことか……」
ライラスはなんと言ったものか、としばらく考えていた。
「きれいな女子生徒に頼られて舞い上がってしまったから、かな?」
「嘘でしょう、それは」
イルマは笑って言った。
「いや、まんざら嘘でもない。実際これからは少し身ぎれいにしなくっちゃって思いなおしてそうしたしね。僕が10代の少年だったら君に親しくされたら嬉しくて眠れなかっただろうと思う」
ライラスは少し寂し気な笑みを浮かべて続けた。
「まあそれ以外にも理由はある。僕はもともとトラホルンの生まれなんだ」
「え? そうだったんですか。カディールの人なんだと思っていました」
「僕は生まれつき白いほうでね、見た目はカディール人っぽいと自分でも思うよ」
「それで、トラホルンから来た私たちに親切にしてくれるんですか?」
「君たちはトラホルンから何か密命を受けてカディールに送り込まれてきた。違うかい?」
ライラスはイルマの顔をまっすぐに見つめて言った。
「言いたくなかったら何も言わなくていい。僕はかつて幼少期にトラホルンの白魔導士選抜試験に落ちてしまってね。灰魔導士だった僕の父は僕に予備訓練を施したうえでこのプラッド魔導学院に送り込んだ。僕は遅くに生まれた子だったから、僕が学院生として学んでいる間に父はボルハンで亡くなってしまったんだけど」
ライラスは一人語りのようにそう言った。
「それで、君たちが入学してきて初めて術式を行使したときに気が付いたんだ。術式の編み方にトラホルンの白魔導士特有の癖があるっていうことに。それは自分にもかつてあって、矯正したものだったからね」
イルマは何と答えればいいのか分からなかった。
「大丈夫。おそらくこれは、僕以外の誰にも気づかれていない。特にイルマとタモツ、君たちはすぐに術式の編み方をカディール式に矯正していたからね。ヴィーツは今でも癖が抜けていないところがあるけれど」
「先生のご推察が正しいかどうかは、ご想像にお任せします」
イルマはやっと、それだけを言った。