04-06.魔導少女、錬金術を学ぶ5
イルマたちはその後もライラスの研究室に通いつめ、ひそかに訓練を積み重ねた。
イルマの友人たち、とくに親しいアイナという少女から、
「ライラス先生のところにずっと通っているみたいだけど何をしているの?」
と尋ねられたが、古代文明に関する文献を調べたりしているのを手伝っていると言ってごまかしておいた。
授業がなかったある日、イルマはライラスの研究室を訪ねた。
「やあ、イルマか。訓練をしに来たのかい?」
ライラスは古代の文献らしき製本された書物に目を通しながら、こちらを振り向きもせずに言った。
「なにをご覧になっているんですか?」
イルマが遠慮がちに横からのぞき込むと、ライラスは読書を続けながら答えた。
「古代魔法文明の、浮遊城という空を飛ぶ城についての文献だよ。魔導戦争時に魔法王国イムルが最終兵器として開発したものだが、バルグ王国の飛竜軍団によって撃墜されたと伝えられている」
この世界では文字を読むときに口の中でもごもごと声を出しながら読むものが多い。そもそも文字を読めないという者も多いのだったが、言葉を口に出さずに黙って読むことができる者は、文献などをよく読み込んでいる一部の人間に限られた。
イルマもヴィーツも黙読はできない。ことにヴィーツは油断するとちょっと大きな声で音読しながら読む癖がある。
タモツが全く声を出さずに文字を読むのでイルマは驚いたのだったが、ライラスも黙読をマスターしているようだった。
「イムルの浮遊城が出撃時に運搬していたのが<爆槍>と呼ばれる恐ろしい魔導兵器だった。大きな槍のようなものに大量の魔素を封じて呪詛と爆発の術式を込めた破壊兵器でね、これはバルグ城の上空に投下される予定だった」
「それが飛竜軍団の攻撃を受けて、イムル王国の領内に落ちた。そしてイェルベ川西岸北部は荒野と化した」
イルマが後を引き継いで言ってみせると、ライラスは驚いた顔をしてイルマを見た。
「なぜそれを? 古代の文献を読み込んだのかい?」
「タモツからのまた聞きです。あの子はすごい量の文献を読んでいるので」
「まだ10かそこらの少年なのに? あの子の天才ぶりは、ちょっと常軌を逸しているな」
「ええ、まあ……。タモツはすごい天才なんです」
余計なことを言ってしまったか、と思いつつイルマは適当にごまかした。
「ニッポン人、といったか。どこかの別世界からやってきた一族だなんて不思議なものだね」
ライラスは文献に目を落としながらそう言った。