03-19.魔導少女、誘惑を試みる2
プラッド魔導学院の教師、錬金術師ライラスの研究室はプラッド魔導学院の2階にあった。
唐突な生徒の訪問にライラスはいささか慌てふためいたようで、羊皮紙の束を置きっぱなしにしていた木の椅子からそれらをどかせて、手で熱心にほこりを払ってイルマに着席をすすめた。
「私はこの頃錬金術に関心が強くて、将来は先生のような錬金術師の道を進もうと考えているんです」
訪問の目的を訪ねられてイルマはしれっと思ってもいないことを口にした。
「そ、そ、そうなんだ」
ライラスはそわそわした態度でもう一つの椅子に腰を掛けた。
「錬金術って言うと、卑金属を金に変えてしまう術ですよね?」
イルマはライラスが話しやすいように水を向けた。
「う、うん。一般的にはそう思われているようだね。ただ、それは理想を掲げているだけの話で、実際に成功したという話を少なくとも僕は聞いたことがないな。それにもし成功しても隠すんじゃないかな。魔導で作られた金ということになると価値が下がってしまうから」
自分の専門分野の話になると、ライラスは落ち着いて熱心に話し始めた。
「大枠では、魔導の力で物質を変質させて何か別の物体に作り替えるとか、剣や盾、その他別の何かに一時的な魔力を付与する研究などをしているんだ」
「一時的、ですか。魔獣と戦ったりするときに剣に炎の力を宿したり、切れ味を高めるとかですよね」
「そうだね。そういう術を専門にする魔導士を付与術士なんて言ったりもするけれど、錬金術師の研究から派生したものなんだ」
「もっと長期間にわたって魔力を保存するような技術は、今では失われてしまったのですか? 制約を受けたときに魔導士ギルドの地下で何か魔力のこもった大きな宝石のようなものを見ましたが」
「ああ。それは、魔晶石というものだね」
どこまで話したものか、と迷うようにライラスは考えているようだった。
ぼりぼりと頭をかきはじめて、あたまのまわりにフケが雪のように舞った。
「先生、あたまをまめに洗ったほうがいいですよ。フケが出ています」
と、イルマは攻める口調にならないように気を付けながら言った。
「あ、ご、ごめん。体質なんだ。頭皮に炎症がおこりやすくて……」
「魔晶石、というものは今でも作ることができるんですか?」
「技術的には可能だけど、誰でもというわけじゃない。あの術式は非常に高度なもので、完成度の高い魔晶石を作れる人間は限られている。僕は上級魔導士に昇格したときに試したけど、十回に一度くらいしか成功しなかった」
ライラスはそう言った。