03-16.元連隊長、調査を開始する
ギスリム国王と念話をした翌日、タモツはヴィーツとイルマに国王との会話内容を伝えた。
「魔晶石の作り方を調べろってか」
ヴィーツが難しい顔をして言った。
「あの、制約をかけられたときの人の頭くらいあった青紫色の石だよな? あれは古代からカディールに伝わる聖遺物じゃねえの?」
「あれよりずっと小さいものなら人の手で作り出せるはずなんだ。国王はその製法を欲しがっている」
「何に使うつもりなのかしらね?」
昼休みの中庭、木の下に三人は集まっていた。ヴィーツとは居室でいつでも話ができたが、男子寮にイルマを呼ぶわけにはいかないし、もちろんこちらから女子寮に行くわけにもいかない。
男子寮と女子寮の間で念話通信を行うことは固く禁じられおり、どうやら過去に恋愛沙汰で何か問題が起きたことがあったらしい。
そんなわけで、昼休みのこの時間帯に学食を食べ終えたイルマを捕まえるしかなかったのだった。
天気は晴れていて、暇そうな学生たちが中庭に出てくることも多かった。
「何の話をしてるのー?」
と、空気を読まずにイルマに話しかけてくる女子などもいたが、
「親の借金に関する相談だよー」
とイルマが答えると、ばつが悪そうにして去っていった。
「嘘は言っていない」
と、イルマはぽつりとつぶやいた。
「本当のことも言っていないけどな」
ヴィーツは受け流して、それから言った。
「そういうものを作るとなったら、錬金術の分野じゃねえの? ライラスって教師が確か錬金術の専門だったと思うけど」
「ああ、知ってる。あの先生、あたしに気があるのよ」
「ええっ?」
タモツは危ぶんだ。今年で14になるイルマはとても美しい少女に成長していた。
男性教師の中にはイルマに目を引かれる者がいることはタモツも気が付いていたが、あわよくば一線を越えようという者がいるのであればタモツとしては見過ごせない。
「あら? タモツ、あたしのことを心配してくれるの?」
「それはもちろんそうだよ。仲間じゃないか」
「あくまで仲間として、ね」
イルマはあからさまにがっかりしたそぶりを見せ、ため息をついた。
「まあいいわ。他に突破口も思いつかないし、ライラス先生に近づいてみる」
「色仕掛けかよ。前にタモツが言ってたクノイチみたいだな」
「身に危険が及ぶようなことはやめてくれよ」
「心配しないで。あたしだって問題を起こして退学になりたくは無いし」
イルマはタモツに向かってほほ笑んだ。