03-15.元連隊長、転送術式を覚える3
ギスリム国王は謁見希望者への応対を終えて一人になったようだった。
(バルゴサ国内の様子はパバールを通じてこちらも聞いている。押井が連れている黒魔導士は念話が安定しないのでパバールが一度受けた後にこちらから念の転送をやり直しているが、タモツの念話は心の声がはっきり聞こえるな)
(どうやら私はこの系統が得意なようなのです。カディッサからボルハンへ自分を転送させることも可能だと思います)
タモツは何度かこちらで実験を繰り返していることを告げた。
(そうか。ならば危急の際にはそなたを呼び戻すかもしれない。カディールに直接敵対する行為は戒律で禁じられておろうが、バルゴサの軍勢に対して防御の術式を使う分には問題あるまい)
(カディールがバルゴサの侵攻を黙認、あるいは支援しているとして間接的にカディールに敵対したとはみなされないでしょうか)
(それは問題あるまい。表立って共闘していると表明していない以上は)
(それならば良いのですが。カディールの魔導士ギルドの地下で、個人を特定する思念の型のようなものを大きな魔晶石に登録されました)
(なるほど。それで魔導士が世界中のどこにいても位置を追跡できるというわけか……)
ギスリム国王はしばし考えているようだった。
(魔晶石……。その作成技術はトラホルンの白魔導士の間ではすでに失われている。戸田冴子誘拐の時に森本モトイの口から出てきた小さな魔晶石は、刈谷ユウスケが微弱な転送門を通じて森本の体内に生成したものと聞いている。魔晶石を生成する技術を調べてくれ)
(魔晶石というものについて陛下は詳しくご存じなのですか?)
(魔力を封じておく石、という以外にはあまり多くは知らぬ。ただ、それを使えばその場で術式を使わずとも後で発動させることもできるというのは分かっている。使い方によっては様々なことができるだろう)
(分かりました。ヴィーツとイルマにも伝えて、探らせるようにします)
(サエコにはお前が無事でいるということを伝えておこう)
(ありがとうございます)
タモツは遠距離念話を打ち切った。カディッサからボルハンまではっきりした距離は分からないが、4000キロメートルくらいはあるのだろうか。さすがに疲労した。
白魔導士の戒律に縛られない上級魔導士を手に入れる、というギスリム国王のもくろみの一つは達成しつつある。
あとはカディールの中枢に接触して国内情勢を探り、魔晶石の製法を持ち帰ることか……。