03-14.元連隊長、転送術式を覚える2
タモツは主に人のいない寝静まった時間帯に、ごく短い距離から転送門の術式をテストしていった。
寄宿舎の自室の中、ヴィーツが寝ている間に部屋の入り口から窓の前まで。
それを何度か繰り返して確実に成功させられることを確認した後、翌日の晩には部屋の外、扉の前から自室の窓の前まで。
転送門を開いて実際に転送される前には、転送先に重なり合う人や物体がないことを事前に遠視しておかなくてはならない。
つまり<魔導の目>を先に習得しないと、危なっかしくて実用できない。
そのためにタモツは別の書物を探して、魔導の目や魔導の耳についても並行して習得して行った。
プラッド魔導学院に入学して良かったことといえば、トラホルンでは学べない術式を会得できたこと以外に、体内の魔素を練り込む呼吸法を会得したり、魔導の仕組みをより深く理解できたこと、歴史について学べたことなどがあった。
特に体内の魔素を練り込む特殊な呼吸法はトラホルンの白魔導士の間では失われた技術らしく、これを持ち帰るだけでも成果と言えるのではないかと思われた。
術式を編む前にこの特殊な呼吸法を行うと、魔導を行使する際に集中力が高まり術式の行使がやや楽になる。この呼吸法を会得して以来イルマの防御術は性能がアップしたが、逆にヴィーツは攻撃魔導の威力を低くコントロールできるようになっていた。
タモツはある夜に、以前に散歩で立ち寄ったことのあるオルラン川のほとりを遠視して人がいないことを確認し、自室からそこに向かって転送門を開いた。
そこからさらに自室へと門を開いて舞い戻り、そのたびに遠視で転送先の状況を確認し、また転送門を開いて移動することを繰り返した。
これで、イメージ通りの場所に問題なく自分の身体を転送できることを確認できた。距離が遠くなればより大きな魔素を要求されるために連続使用はできなくなるが、カディールからトラホルンまでの超遠距離転送もやろうと思えばいずれは可能ではないかと思われた。
翌日の夕時、タモツは押井との定期連絡を行った後、トラホルン王宮の玉座に向かって念話を送ってみた。
あらかじめ王の居場所を特定しようにも、王宮内には遠視や転送をはねのけるための防御陣が張られているので、それを貫通して送り込めるのはわずかに思念だけであった。
たまたま、ギスリム国王は玉座にいた。
(ギスリム陛下、タモツです。学院内の古書をあさり、転送門の術式を会得いたしました)
(タモツか。ついに上級術式を会得するまでに至ったか)
謁見の間で誰かと話していたらしいギスリムは、心の声でそう言った。