03-13.元連隊長、転送術式を覚える
入学から3年近くが経過していた。
イルドゥ老師の指導のもと予習を重ねていたおかげで、タモツたち3人はそれぞれ優等生として実技試験を順当にこなしていた。
ヴィーツは相変わらず攻撃的な術式を中心に天才的な技量を見せており、イルマは防御的な術式に才能を発揮した。
タモツはといえば、最初に覚醒した遠隔系の術式に天分があると思われた。
ある時、タモツは資料庫の古い書物から上級術式である転送門の術式に関するものを発見した。
それはこの世界の本の中では貴重な紙製の、製本された書物であった。とても古いものと思われ、盗難防止のために魔導の印が表紙に付与されていた。いわゆる禁帯出、持ち出し禁止という扱いである。
羊皮紙を買い集めて写本を作る余裕はなかったために、タモツは空いた時間を使ってその書物を読み込んでは自習に励んだ。
プラッド魔導学院の正規のカリキュラムは他の二人とともに第9学期に突入しており、遠隔地にいる人間と心で会話をする<念話>についてもすでに授業で修めていた。
魔導を封印されていながらイルドゥ老師の教え方は論理的でとても上手だったので、画一的なカリキュラムに基づいて教えられる魔導学院の授業よりもとても分かりやすかった。タモツたちはしばしば学院の授業に不満を覚えたりもしたのだが、反面、予習のおかげで苦も無く優等生の立場になれたことをイルドゥ老師に感謝していた。
学院で学んだ成果と言えば、トラホルンの白魔導士たちが学ばないという呪詛系など、トラホルンでは失われた術式について学ぶことができたことである。これらは使うことを推奨されるものではなく、主に敵に使われた場合に適切な防御を行うための予備知識として学ばされたのだったが。
カディールにおいても非正規の手段――主にジッドの服用による――で魔導に目覚めて、その後、野良の魔導士に師事して魔導の術式を修めるような連中は存在した。
そのような、正式ではない手段で魔導士になった者たちをカディールでは闇魔導士と翻訳できるような呼び名で呼んでいたが、タモツたちは会話においてはトラホルンの流儀に従って正規の魔術師を白魔導士、非正規の魔導士を黒魔導士と呼ぶようにしていた。
ところで、転送門の術式についてである。
入学から3年に満たない期間で、タモツはこれを独学で会得することに成功していた。
もともと基礎としては念話に近い力の使い方をするのであるが、土地勘のある場所を思い浮かべてそこに向かって移動するための魔導の門を構成する。
聞きかじっただけの土地勘のない場所に向かって転送門を開くことも理論上は可能なようだったが、イメージが安定しないためにやってみる勇気はなかった。移動したい場所と別の場所に転送されてしまうだけならば転送をやり直せばいいだけの話だったが、時空のはざまにはまり込んで二度とこの世界に帰ってこれない危険性がある、と書物には注意書きされていた。