03-12.元連隊長、念話する2
夕暮れ時の運動場は他に誰もいない。
タモツは木陰にたたずんだまま、押井との念話を続けていた。
(バルゴサの軍事力の支柱となっている竜騎兵か。そんなものがなだれこんできたら異世界自衛隊の兵器を駆使しても立ち向かえるかどうか)
(乗っている人間のほうを狙って戦うしかないでしょうね)
(例え明確な敵であっても人間を殺すというのは後味が悪いものだったよ……)
(お察しします。しかし、ことがこうなってしまうとやるしかないでしょう。私は除隊した身なので偉そうには言えませんが)
(やるしかない。そうだね。また何かわかったら連絡して)
(分かりました。引き続き情報収集に励みます)
タモツは念話を打ち切った。
前回の念話通信で、押井はバルゴサ軍が民兵を集めるという噂があると知らせてきた。
バルゴサの竜騎兵は100と言われているが、重装歩兵である竜戦士の軍団は押井の推測で約1000。一般兵の数は3000から4000と予想された。これらのうちいくつかを王都に残すかもしれないが、ほぼ総力戦で来ると考えられた。
民兵についてどれだけ招集するのかは分からないが、ことによると軍勢の総数は1万を超えるかもしれない。
対する味方は、異世界自衛隊の兵力が2個増強連隊で2000に満たないはずである。近代兵器で武装しているとはいえ、弾薬の数が潤沢とは言えないために数で押されたら敵を食い止められるのか分からない。
槍兵を主体とするトラホルン軍は3000ほどと聞いている。
魔導を戦争に使うというのは法により許されていない。特にカディールと敵対することは許されていないが、自分の身を守る以外の目的で魔導士たちが戦いに身を投じれば、太古の戦争のように悲惨な殺し合いが再現されてしまうために、厳格に禁じられている。
禁を破ればカディールの処刑執行官――実態はほぼ魔導暗殺者である――の手にかかって魔導の力を奪われるか、あるいは直接的に殺されてしまうことになるという。
(魔導士になれば戦争を有利に導けるかもしれない、という考えは全く甘かったな……)
タモツは考え込んだ。
誰かが魔導を戦争に持ち込めば、敵の側も報復として魔導を戦いに持ち込む。そしてそれは際限のない泥沼の戦いに移行していく。
カディールの魔導ギルドも、トラホルンの魔導士の塔も、そのような事態への備えとして魔導士の力の行使を縛る法を厳格に定めていた。