03-11.元連隊長、念話する
学院の授業が終わった夕暮れ時に、タモツは校舎の手前にある広場で過ごすのが日課になっていた。
他の生徒たちに尋ねられれば、
「ここは一人で考え事をするのに良いんだよ」
と答えていたのだったが、実のところ別の目的のために毎日カモフラージュをしているのだった。
その目的とは、遠くバルゴサに旅立っていった押井と念話で情報交換をすることであった。
毎日ほぼ同時刻にタモツが同じ場所にいるので、押井が雇い入れた黒魔導士がタモツに向かって念を送り押井たちのいる場所を教える。そして、今度はタモツが押井に向けて念を発するのであった。
(押井くん、そっちのほうはどう?)
(沖沢さん、お久しぶりです。商売については相変わらず売れてはいます。情報収集に関してはあまりこれといったことは掴んでいません。ただ、状況がひっ迫してきているのは感じられます)
(食糧難がひどくなってきているの?)
(王宮は、ラフラという戦時通貨を発行しました。金銀の合金でできた貨幣なんですが、これを名目上金貨と同じ扱いにして流通させています。戦争が終結した後は金貨と交換できる、っていうことを保証して)
(バルゴサが戦争に負ければ、紙屑……とはいかないまでも、その価値は10分の1くらいに落ちてしまうよね)
(そういうことになりますね。しかし、この貨幣を信用しないとなるとバルゴサ国が敗北すると思っている、ってことになってしまいます。バルゴサ国内の今の雰囲気からすると拒否することが難しいですね)
(太平洋戦争前夜の日本みたいになっているってことかな、国内の雰囲気は)
(私は歴史にあまり詳しくないので何とも言えませんが、表立っては人々が戦勝バブルを期待しているようなことを言いますね)
(バルゴサ国民はトラホルンとの戦争に期待しているってこと?)
(反対を唱える人は、表立ってはあまり見当たりません。ジエイタイについてもこの国の人々はおおむね深い関心を持っていなくて、別世界から召喚された傭兵が何者だろうとバルゴサが誇る竜騎兵や竜戦士にかなうものかと思っているようです)
(押井君は、竜騎兵という人たちを間近で見たことがあるのかい?)
(ええ。王都ヌーン・バルグで一度だけ。なんていったか、恐竜図鑑で見た素早そうで細長い、二足歩行の恐竜。あれとティラノサウルスを足したような感じの地竜というドラゴンに乗っていました)
(分からないな。サエちゃんだったらきっと詳しいんだろうけど。とにかく走るのが早そうな恐竜みたいなやつなんだね)