03-09.元連隊長、世界情勢について考える
「ふう……」
タモツは書物を棚に戻してため息をついた。
カディールとバルゴサの成り立ち、古代史についてはおおむね把握できた。
これが次の戦いで直接役に立つ知識であるかどうかはさておくとしても。
そして、今から500年ほど前にカディールの西方から出発した一団がイサ地方を経由し、今のトラホルンに相当する地域を鎮圧にかかった。イリニ族という先住の騎馬民族を併呑して建国された国家がトラホルン王国ということになる。
国の成り立ちから言えば敵対的であってもおかしくないカディールとバルゴサが今は政治上では近しい関係にあり、カディールから独立したトラホルンがバルゴサと睨みあっている。
もう一つの大国と言える東方通商連合については、トラホルンよりもさらに新興の国家であるようだが、ここの資料庫に詳しい本は存在していないようだった。
伝え聞く話によると南方大陸との太い貿易ルートを持ち、外洋貿易と大陸内の交易によって莫大な富を得ている都市国家群であると言う。
領土と呼べるようなものはあまり広くないようだが、東方通商連合こそが大陸の経済を握っていると言われている。
トラホルン領内に米を南方大陸から輸入するために、ギスリム国王は連合を経由せずに独自の交易ルートをテモス村の南に開いていた。
トラホルンにも一応海に面した南側の土地があるのだが、外洋を行くような交易船が停泊できる港は存在していなかった。
それを、急ごしらえで港を整備して船も船員ごと雇い入れて、トラホルンが独自で南方から米を仕入れられるようにしたのだ。
それがもう10年も前の話になるのだが、その際に王は東方通商連合への根回しに苦労したと聞いている。
その東方通商連合、というのが大陸第四の勢力なのだったが、バルゴサにもトラホルンにも味方することなく、一度仲裁を行ったのちは中立の立場を貫くようだった。
そして、今回のトラホルンとバルゴサの間のにらみ合いで最も割を食っているのがイサであった。
歴史的にトラホルンとバルゴサの双方が領有権を主張してきた地域であり、幾度となく奪い合いが行われていた。
100年ほど前にトラホルンが自国の息のかかった自治領として、名目上は独立させて戦乱に一度終止符を打った。
しかし、10年前ほど前から今度はバルゴサが親バルゴサの議員を扇動しはじめ、6年前からイサは事実上バルゴサの属国になっている。
イサの領内には多くのバルゴサ軍勢が駐留し、トラホルンへといつでも侵攻可能な体制を作り上げていた。