03-08.元連隊長、古代史を学ぶ
制約を受け入れたことでタモツたちはいわば上級生となり、学院の奥にある資料庫への立ち入りも許可されるようになった。
そこには羊皮紙につづられた紙束だけでなく、カディールを含めて大陸各地ですでに失われた製本技術によって作られた紙の書籍も存在していた。
カディール北部は遊牧民族が暮らす草原地帯になっているが、その人々との交易によって羊皮紙の供給は潤沢である。ただ、いずれは新日本共和国が算出する紙が、それらの需要を圧迫していくことになるだろうと思われた。
それはさておき、タモツは資料庫に頻繁に足を運び、主に古代史に着目して資料を読み込んでいた。
資料として残された文献の数は多くないなか、タモツは古代魔法文明イムルと、それを滅ぼしたバルグとの戦いに興味をひかれていた。
イェルベ川の西側、現在では荒野となっている北部にイムル王国は存在していた。文献に見る限りでは華やかな文化を誇った魔導文明であったようで、移動要塞として空中を飛ぶ城、浮遊城を擁していたとされる。
一方で、竜を操る一族に率いられたバルグ王国は飛竜の軍団を率いてイムルに敵対した。
バルグ王国の本拠地を魔導兵器で攻撃するために首都イムルを飛び立った浮遊城は飛竜軍団の攻撃を受けた。その際に、バルグ王国の領土に落とすはずだった何らかの魔導兵器を自国領に落下させてしまった。
それにより、イムル王国の領土だったイェルベ川西岸の北部地帯は荒野へと変わり果てた。遥かな時が経過した今となってもそこは荒れ果てた土地のままで、魔力の範囲の境界線から南にいくといきなりの森林地帯が広がっている。
コントロールを失って墜落したとみられる浮遊城は、9年近く前にハジメ率いる当時の特務隊によって発見されていた。1000年近く昔の遺跡が無傷のような形で残されているという報告は驚きだったが、なにがしかの魔導によって力を込められた建造物ならばそのようなこともあるのかもしれなかった。
滅び去ったイムル神聖王国の残党がイェルベ川を東にわたって建国したのがカディール帝国の始まりである。
初期には評議会が主導する共和制の小さな都市国家から始まったものだが、のちにバルグ王国が弱体化すると付近の部族王国を併呑し、さらにバルグ王国の所領だった土地も切り取っていった。
そして、初代皇帝ヴァレロン一世が自らを「魔帝」と名乗り、ここにカディール帝国が誕生した。
それ以降辺境地帯の小競り合いを除いては、ほぼカディールの領地は現在まで変わっていない。
一方で、バルグ王国はその後内紛を繰り返して弱体化し、一度は滅びてしまった。そののち、一人の竜使いが<新バルグ>を名乗って興した国がバルゴサ王国であった。
バルグ王国がイムルの属国であった古代の時代に賜れた<竜玉石の玉璽>を王権の象徴として掲げ、バルガスという竜使いが初代バルゴサ王を名乗った。
バルゴサ国の領地はカディールの東にあるが、竜が多く住むヤルバルグ山脈を霊峰としてあがめるため、山がちで耕地には向かない土地に彼ら民族は固着していた。