03-06.元連隊長、制約を受ける
アストランの放校から3か月が経過していた。
タモツ、イルマ、ヴィーツの3人は初歩の魔導を「習得」し、中級の魔導を学びはじめる第6学期へと進級している。
「ここから先の魔導を学ぶ者たちには、カディール帝国の魔導ギルドが定めた制約が課せられます。これを拒否する者はこの先の段階に進むことはできません」
背の高い中年女性の、ナーセル教頭が第6学期に進級した子供たちを集めて言った。
事前訓練を受けていたタモツたちの進級はとても早かったため、前年度やそれ以前からの入学者たちに追いついていた。
「制約の内容は大きく3つ。ひとつ、魔導を用いてカディール魔導軍に敵対してはならない。ひとつ、自分の身を守るとき以外に魔導を使って人を攻撃してはならない、ひとつ、これより学ぶ中級以上の魔導の術式を他人に伝授してはならない」
ナーセルの前に整列させられた8人の生徒たちは、皆それぞれにナーセルの言葉を飲み込んだ。
「教頭先生、質問があります」
イルマが手を上げて発言した。
「なにかしら、イルマ?」
「もしも、その制約を破った者がいたらどうなるのですか?」
「あなたたちの魔脈は断ち切られ、魔導士としての力は奪われます。これよりあなたたち個人個人の心の型を、魔導士ギルドの地下にある巨大な魔晶石に登録することになりますが、それであなたたちが大陸のどこに居ようとも居場所を特定し、追跡することができるようになります。ゆめゆめ制約を破ることの無いように」
(生体認証を取られて、IDで管理される。そんなところか)
タモツはそう考えて納得した。強力な魔導士たちが野放しにされているはずもないと思っていたが、カディールはそのようにして魔導士たちを管理しているようだった。
カディールの魔導軍と敵対してはならないと明示しているということは、逆に言えば他国同士の戦争に魔導の力が使われる分には知ったことではない、ということでもあるのだろう。
初歩の魔導しか学んでいなかった段階でも、ヴィーツは爆炎の術式を巨大な火球として生み出すことができたが、それを制約で封じるわけではないようだった。
そもそも、学院に入学して分かったところではヴィーツは恐ろしいレベルの天才児だった。他の生徒の誰もヴィーツと同レベルの巨大な炎を生み出すことはできず、ヴィーツは火炎術式や爆炎術式を使う時には威力を抑え込むことにいつも苦労しているようだった。