03-04.元連隊長、先輩を試す
タモツが呆然と見つめるなか、アストランは嬉々として魔導の術式を編み始めた。
「いでよ、炎!」
勢いよく右手を突き出してみたものの、炎は出現しなかった。
アストランは次に見えざる盾を試したが、これも全く発動しなかった。
タモツは都市警備隊に突き出すために倒れた大男の両手両足を縄で縛っていた。
もともとはアストランを気絶させてでもジッドの飲酒を止めて、必要があれば縛り上げるつもりで持ってきたものだ。
タモツは木の棒をぐりぐりと男の頬にねじこんで、痛みで目を覚まさせた。
「おい、答えろ。お前があの少年に売ったジッドは偽物か?」
「……とんでもねえ。まぎれもねえ本物だ。粗悪品でもねえ」
タモツは少しの間考えてから、アストランに近づいていった。
「先輩、ちょっと失礼します」
アストランの間近で炎の術式を編んで指先に小さな火をともした。
そしてそれをアストランの身体に素早く押し付けた。
「!!?」
アストランの身体に触れる直前に、魔導の炎はふっと消えてしまった。
「なんだよタモツ! 脅かすな!」
「破魔体質……」
タモツはつぶやいた。
「破魔体質?」
「以前にトラホルン秘蔵の魔導書で読んだことがあるんだ。その体質を持つ者は一切の魔導を使うことができない。そして、あらゆる魔導を打ち破ることができる。極めて珍しい特殊体質だよ」
「僕が、それだと?」
「おそらくはそう。君は残念ながら魔導士にはなれないよ、アストラン。でも、君にしかできないことが何かあるはずだ」
タモツはアストランと距離を取り、あらためて別の術式を編んだ。
「威力は加減する」
「ちょ、ちょっとタモツ! それは!」
タモツが編んだ爆炎の術式は、成人の親指ほどの大きさの火球を生んでアストランの身体のほうへ浮遊した。
しかし、これもやはりアストランの身体に触れる前に爆発することもなく消失した。
「この世のどんな魔導士も君を殺すことはできない。炎も爆発も呪詛も何もかも、君には効果をもたらさない」
「そんなことって……」
魔導士を夢見て何年も学び、魔導が開眼しないという屈辱に耐えながら何年も過ごしてきたアストランにとって、これはとてもショックなことだったようだ。極めて珍しい特殊な才能を持っているのだと言い換えられたところで、魔導士の才能が全くないという事実を突きつけられては喜ぶ気にもなれないのだろう。