02-15.元特務隊長、カリザトへ行く
「はい、それじゃ次はカリザトね」
ハジメは護衛の一団に向かって宣言した後、馬を東に走らせた。
トラザム駐屯地から東にひたすら進むと、王都ボルハンの南東に位置する異世界自衛隊最大の駐屯地に到着した。
カリザト駐屯地は現在異世界自衛隊の中枢ともいえる駐屯地で、駐屯地の敷地の奥には総司令部である方面司令部が存在する。
少し前まではハジメがよく知る戸田冴子が駐屯地司令をしていたが、今では後任の恩田1佐が就任していた。
駐屯地司令というと、現実世界ではその駐屯地の主力部隊の長が兼任する役職であったが、異世界自衛隊においては戦闘部隊の指揮官が駐屯地運営業務を兼ねることは難しいため、別の人間が就く習わしになっていた。
ハジメやタモツが幹部になりたてのころから1000人以上の人員を抱える駐屯地であったが、東方重視の体制になってからは各地から集められた隊員によって増強され、1500人ほどの人員を擁している。
カリザトの主力部隊である第3普通科増強連隊は、本来の編成であれば人員数500人程度のところ、今は800人の隊員によって構成されていた。
恩田1佐が是非とも訓示を賜りたいと申し出たので、ハジメはカリザトで一泊して、翌朝に駐屯地朝礼で何かをしゃべることになった。
何を話そうか悩むこともなく、ハジメは宿舎でいびきをかいて眠った。
翌朝、朝礼場に集められた1500人近くの隊員たちの前でハジメは演題の上に立ち、隊員たちの顔を見まわした。
「どうも。新日本国大統領をつとめさせてもらっています木下ハジメです。知っている人も多いかと思うけど、昔ちょろっとドラゴンを懲らしめた件で名前が売れちまいました。<竜殺し>なんていう名前で呼ばれたりして、トラホルン人たちからはぺたぺた体を触られます。そうすると寿命が延びるんだそうで」
隊員たちの中にさざ波のような笑いが起こった。
「それはさておき、今日は前線で勤務しているみんなの顔を見に来ました。知っての通り、バルゴサのアガシャー王はトラホルンだけではなく新日本国にも侵略の手を伸ばそうとしている。来るべき戦いにおいて、北東のバイアランとこのカリザトがアガシャー王の竜騎兵、竜戦士軍団を食い止める砦となるってわけだ」
ハジメは少しの間言葉を止め、それから言った。
「この戦い、俺たちは決して負けるわけにはいかねえ。新日本国の未来と、トラホルン王国との友好のためにも。みんな、奮起してくれ! なにとぞよろしく頼む!!」
隊員たちの間からは大きな拍手が起こった。