02-09.外交武官、格闘王と再会する
武術大会の催しがすべて済んだ後、木下カナデと戸田冴子は並んで岡崎に頭を下げた。
「八百長なんて頼んで申し訳ありませんでしたーっ!」
「大変な無礼を申し上げた。平にお許しを!」
「あ、いえ。いいんですよ。一応断っておきますけどわざと負けたわけじゃないんで」
岡崎は鷹揚に言って、二人に頭を上げさせた。
「まあ、なんか結果的に、若くて可愛い嫁さんをもらう運びになっちゃったし」
岡崎はデレデレした様子で言った。
「岡崎くん、可愛いもの好きとは聞いていたけど、まさか……」
カナデは両手を口に当てて、引き気味に絶句した。
「違いますっ! ロリコンってわけじゃありません。ちゃんと彼女が大人になるまで待ちますっ」
「まあなんにせよ、我々の画策は無駄に終わったな。ギスリム国王はああ見えて、見るべきところを見ているのだな」
「娘さんが思い人と結ばれるように考えてあげていたんですねえ」
「だとしたら俺は当て馬だったってことで、それはちょっと面白くないですけどね」
冴子とカナデが顔を見合わせるのに、岡崎はちょっとムスッとして言った。
冴子やカナデと他愛ない話をしている間も、大統領夫人であるカナデの周囲には警護役の自衛隊員が4人配置されていた。
「はあ……。なんだかタイチョーもカナデさんも遠い存在になっちゃったみたいだなあ」
と岡崎はつぶやいたが、
「いや、それを言うなら岡崎2尉、ああ、今は1尉か。君なんか国王の婿になってしまったんだが」
と、冴子はやや呆れて言った。
「戸田1佐、俺自衛隊を辞めることになるんですかねえ。トラホルンで何をすればいいんだろう?」
「私に聞かれても困るぞ。王宮警護隊の面々相手に格闘術の教官でもやればいいのではないか?」
「それもいいのかなあ。王女が大人になるまでに特戦隊を誰かに引き渡そうか」
岡崎は身の振り方について悩んでいるようだった。
「カナデ、いーこと考えたっ!」
カナデはパッと思い付きを口にした。
「当面は外交武官としてトラホルンとイムルダールを行き来したらいいんじゃない? そしたら王女様とも会えるし、タイチョーやカナデとも会えるじゃんっ!」
「ああ、それはいいですね。トラホルンにそういう役職があるのかは知りませんけど」
と、岡崎は笑った。
「なければ作っちゃえばいーんですっ!」
とカナデは断言した。
「ギスリム国王に進言をして、それから特戦隊を誰かに引き継いでから自衛隊を退職かあ……」
「採用されたら、私とは逆の立場ということになるな」
戸田冴子は岡崎を見て言った。