02-04.格闘王、死闘する
大歓声の中、現れたのはボルハンのロトムであった。
7年前に戦ったときと比べて体格が成長し、肉が厚みを増している。
甘いマスクは精悍さを増し、その表情には悲壮なまでの必死さが見えた。
「オカザキ……」
ロトムは岡崎に近づいて、苦汁を飲んだような表情で言った。
「すでに連戦を重ねているお前にこのような形で挑戦すること、卑怯だとは思う。しかし、何と言われようとも私はお前に勝たなければならない」
「シーリン王女と恋仲だってカナデさんを通じて聞いている。だが、俺も負けてやるわけにはいかない」
二人は会場の中央でにらみ合いながら、二人だけで言葉を交わした。
「両者とも戦いの準備は良いかっ!? それでは構えよ!」
ギスリム国王が良く通る美声で高らかに言い、右手を高々と天に向かって挙げた。
ロトムはやや上体を沈めた前傾姿勢に構えを取った。岡崎はどのような動きでもできるように、ややかかとを浮かせて直立した。
「はじめえっ!」
叫びと共に国王の右手が振り下ろされた。
刹那、ボルハンのロトムは高速で上体をさらに沈み込ませつつ先行させて突進し、岡崎の腰から下を捕まえにかかった。
(……これはっ!)
7年前の戦いで岡崎がロトムに決めたレスリング式の高速タックルであった。
岡崎は素早く右に体をかわして逃げ、逃げ際にロトムの背中を左手で強く押し付けた。
岡崎が距離を取って身構えると、前につんのめるようにして行き過ぎたロトムは地面に両手をついて蛙飛びのように軽くジャンプをした後、反転してこちらに向き直りながら立った。
猫背のように背を丸め、首を肩に沈めるような前傾気味の姿勢でロトムはこちらに向かって構えをとった。両の手は岡崎につかみかかるように前に突き出されている。
正面からのつかみ合いになれば若くて膂力のあるロトムのほうに分があるだろう、と岡崎は踏んだ。
当然向こうもそれは分かっているはず。ならば逆に、いったんは真っ向勝負を受けてやろう。
岡崎はロトムに似た構えを取り、二人は相手の手を互いに払いのけながら近づいていった。
岡崎の右手がロトムの左肩をつかんだ時、ロトムの右手もまた、岡崎の左肩をつかむところだった。
岡崎は右足を素早く大きく動かして、ロトムの右足を外側からすくい上げにかかった。柔道の大外刈りである。
右足を跳ね上げたところで腰に体重をかけて相手の身体に押し付けながら、上体から倒しにかかる。
しかし、ロトムの右足は岡崎のひっかけをかわして持ちこたえた。逆に岡崎が押し付けた腰を抱くように左腕で抱え、右手でつかんだ左肩とともに、お姫様抱っこでもするかのように持ち上げようとしてきた。
そのまま、砂地の地面に肩からたたきつけようとする腹積もりだろう。
岡崎は幼児がいやいやをするように体をゆすり、ロトムの両腕から転げ落ちるように逃げた。肩甲骨を付かないように左手で地面をたたき、腰から着地した後に下半身と両手だけでロトムと距離を取った。
ロトムは覆いかぶさるようにそれを追いかけてくる。
岡崎は逃げながらロトムの大腿部を何度も蹴りつけて牽制した。
それから、地面に両掌をついて上に飛び上がるようにして体制を取り直した。
ロトムは必死の形相で一歩一歩にじり寄ってくる。絶対に負けられないという気迫が湯気となって身体から立ちのぼっているようだ。




