02-03.格闘王、挑戦を受ける
岡崎が最後に戦った相手は、異世界転移してからまだ日が浅いという格闘畑の隊員だった。
若さという点においては岡崎を上回っていたが、経験値の差で思いのほかあっさりと岡崎は勝利した。
ねこだまし、を岡崎は使った。敵の目の前で思い切り両手をはたいて驚かせ、隙をつくという技である。
岡崎が現世にいた時代に、とある相撲取りが取り組みにおいて使ったことのある技だったのだが。
岡崎の両手の動きに注意を向けていた相手の隊員は思わず目をつぶり、そのすきに岡崎は右手で相手の右の肩をつかみ、右足で相手の右足を内側からけり出した。
相手の身体を時計回りにぐるりと回転させ、バランスを崩したところで一気に上体を押し込んで背中から転倒させた。
審判が岡崎の勝利を告げたが、岡崎は勝ち誇ることなくその場に仁王立ちしていた。
なぜなら、ここで飛び入りの挑戦者が入り込んでくることになると知っていたからである。
木下カナデ大統領夫人が競技場の中央に割り込んで、チャレンジャーの登場を告げることになるのだろう。
実際に、国賓席で大統領代行として臨席していたカナデがSP役の隊員たちを押しのけて会場に乱入しようとしているのが見えた。
が、それより早く動いたのは意外なことにギスリム国王であった。
「見事だ<竜殺し>のオカザキ! しかしここに一人、そなたに挑戦したいと申し出ている者がいる。余としては真の強者に我が娘をくれてやりたいと思うのだが、その挑戦、受けて立つか?」
「無論!」
と、岡崎は吠えるように言った。
「その意気やよし! そなたと試合たいと申すは勇士ロトムの孫、ボルハンのロトム!」
国賓待遇の木下カナデも、その横にいる戸田冴子も驚いたように国王のほうを見つめている。
シーリン第一王女も思わず立ち上がり、父王の顔から目が離せないようだった。
「新日本共和国最強の戦士と、トラホルンが誇る勇士! 彼らの対決はこれで二度目となる! いざ、我が婿となる権利をかけて存分に戦うがいいっ!」
この予想外の成り行きに会場を埋め尽くしていたトラホルン国民、休暇を取って試合を見に来た日本人たちは興奮に沸き上がった。
前回の戦いと同様にロトムを応援する声は圧倒的で、岡崎はアウェイ感を味わうことになった。
(まあいい。応援の声が無くても俺は勝つっ!)
岡崎が気を取り直しかけたとき、どこかから、
「ザッキー!」
という少女の声が聞こえてきた気がした。