02-02.格闘王、勝ち進む
岡崎1尉はかつてないほど本気であった。
35年の人生の中で、今ほど様々な格闘経験を積んできてよかったと思ったことは無かった。
竜の月3日、予定通り自衛官たちによる格闘大会が行われた。
競技の内容は<バルゴサ相撲>。ルールは簡単で、相手の肩、厳密には肩甲骨を地面に付ければ勝ちである。両肩ではなく片側でいい。
相手を投げても良い、転ばせても良い、突き倒しても良いし、気絶させてひっくり返してもいい。
力量が違う相手同士だと一瞬で勝負が決まることも多い競技である。そのため、比較的怪我をするものが少なかった。
ルールを飲み込むや、岡崎は多彩な技で数多くの相手を倒していった。
なにしろ、まずは体格に恵まれていたからそれだけでも非常に有利であった。
さらに、岡崎は様々な格闘技から使える技をいくつも引っ張ってきて、それらを有機的に組み合わせた流れを自分の中に作っていた。
小兵の相手はつかんで投げ飛ばし、太った相手は足払いで転ばせ、自分に迫る体格の相手はいきなりのタックルで沈めた。
(結婚するぞ! 結婚するぞ! 結婚するぞ!)
岡崎は勝利するたびに心の中でそう叫んだ。
賓客たちのための特等席をみやると、この大会の賞品ともいうべき存在のシーリン第一王女の姿が見えた。
やや浅黒い肌をしたほっそりした少女で、聡明そうな面立ちに少し陰りがあった。
彫りの深い父親の顔立ちと比べるとやや地味ながらも、美少女と言って良い顔をしている。
(あんな可愛らしい女性が奥さんになるかもしれないっ! いや、必ず勝って見せるっ!)
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カナデを通じて打診された冴子からの願い事は、即座に断った。
「いくら大統領夫人からの頼みとは言っても、それは一人の格闘家として絶対に受け入れるわけにはいきませんね」
「……そうだよね、岡崎くん。変なことをお願いしちゃったね、ごめん」
カナデは即座に謝った。
大会が催される数日前の、イムルダール駐屯地での出来事であった。
「それに、俺は本気で嫁さんもらいに行きますから!」
「岡崎くんなら、いくらでもいい人見つかるでしょうに。背も高いし、優しいし」
「外見で怖がられるか、意外と気が小さいってフラれるかどっちかだったんですよっ!」
岡崎は悔しさを込めて強く言った。
「なんならカナデ、誰か知り合いのWAC紹介してあげてもいいんだよ?」
「結構です! 俺はこの大会に自分の将来を賭けますっ!」
岡崎はカナデに向かって断言した。