02-01.格闘王、夜空にほえる
「例の武術大会の話、私もサルヴァ様からお聞きしました。国王陛下にお考えを改められるように直訴いたしましたがダメでした」
「サエコ……」
シーリン王女は不思議そうな顔をして冴子にたずねた。
「あなたがどうして私のために、そんなことまでしてくれるの?」
「新日本国とトラホルン国の真の友好のため、とでも言いたいところですが、一人の女として御父君の暴挙が許せないのです」
「ありがとう。でも、父上は一度決めたことを覆さないお方。深いお考えがあるのだと思うわ」
「だとしても、このようなことを私は見過ごしたくはないのです」
冴子は力強く言った。
「まだ打てる手はあると思います。必ずうまく行くとは限りませんが」
「本当に!?」
「国王陛下は新日本共和国とトラホルン王国の友好を深めるための催しとして、シーリン様の婚姻を利用しようと考えておいでです。その画策を邪魔せず、むしろ盛り上げる方向で策を考えてみました」
「と、いうと?」
初見の時に感じたようなよそよそしさはどこに行ったのか、シーリンは冴子のことを信頼する気になったようだった。身を乗り出して冴子に尋ねた。
冴子は自分が考えた計略について話し始めた。
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自衛隊駐屯地を含む新日本共和国全土に通達があったのはそれから数日後のことだった。
「来たる竜の月の3日、トラホルン王国第一王女シーリン姫の婿の座をかけて、王都ボルハンで武術大会を行う。我こそはと思う自衛官、技官はこぞって参加せよ」
という内容であった。
それを受けてイズモ、イムルダール、イェルベ、トラザム、カリザトの各地から総勢95名の自衛官たちが参加を表明した。
ちなみに技官からの参加希望者は一人もおらず、全員が有給や代休を消化しての参加であった。
その中に、ひときわ闘志をみなぎらせている男がいた。
イムルダール駐屯地所属の特戦隊長、岡崎1等陸尉である。
身長2メートルをわずかに超え、厚みのある鋼の肉体を誇り、異世界自衛隊で格闘最強とも称されるかつての<竜殺し>の一員であった。
ちなみに身体がとても重いので持久走はすごく苦手であったのだが。
しばしば悪人顔と称されるその容貌はひどく恐ろし気なのだが、外見に似合わずひどくシャイなために女性とは縁がなかった。
年齢は今年で35歳になる異世界転移者であった。
「格闘王に俺はなるっ! そして、若くて可愛い嫁さんをもらうっ!」
イムルダール駐屯地の空き地で、二つの月を見上げて岡崎は夜空にほえた。