01-20.元駐屯地司令、王女と話す
第2王女サルヴァは相変わらずの人懐っこさで冴子に近づいてきた。
が、第1王女シーリンは自室に閉じこもって出てこないのだという。
後宮で王女たちの住まいとなっている塔の一室で、冴子はサルヴァからその話を聞いた。
国王は近く、シーリンの夫を決めるための武術大会を催す予定であるらしい。
ギスリム国王からそれを伝えられて以来、シーリンはめっきりふさぎ込んでいるということだった。
冴子は怒りに燃えつつ王宮に取って返し、ギスリム国王に謁見を願い出た。
「なにとぞお考えをお改めください、国王陛下! 姫様を催し物の商品のように扱うなど、断じて見過ごせません!」
「これはこれは……。何の話かと思えばそのことか。そちの言い分もわからないではないが、もう決めたことだ」
「国王陛下!」
「トラホルンは武勇を重んじる国。姫の婿となるにふさわしい相手として、武人の中でも最強の者を選びたい。国民の多くは納得もしよう」
「無礼を承知で申し上げますが、庶民の人気取りのために娘をさらし者にするなど、到底父親としてマトモとは思えません」
「それは本当に無礼だなサエコ。幅広く強者を募るのに他にもっと良い案があるとでもいうのか?」
「それは……」
「話がそれだけならば立ち去れ、サエコ。余はこれでも国王の身でな。何かと忙しいのだ」
ギスリム国王は退屈そうな顔をして冴子を追い払った。
「シーリン様、シーリン様、サエコでございます」
再び後宮に引き返し、冴子はシーリン第一王女の部屋の戸を叩いてみた。
「何の用? わたしは今誰にも会いたくない」
と、部屋の中から応答があった。
「お話がございます。どうか、鍵を開けてくださいませ」
冴子はシーリンのために自分が動こうと決めていた。
武術大会の催しを中止させることができない以上、取れる手段は一つしか思いつかなかった。
しばらくの沈黙ののち、部屋の鍵が開く音がした。
「なに?」
と、ふてくされた様子でシーリンは戸の隙間から顔をのぞかせた。
その目は泣きはらしたように赤かった。
「内密なお話がございます」
「内密な話? 入って」
シーリンは意外なほど素直に部屋の中に冴子を入れてくれた。
部屋の中には意外なほど簡素なベッドと机の他、可愛い人形、ぬいぐるみやあみぐるみがたくさん置かれていた。
「単刀直入に申し上げます。わたくし、シーリン王女とロトム様が逢瀬をなさっているところを偶然見てしまいました」
「!!」
シーリンは絶句した。
「ご安心ください、このことは他の誰にも言ってはおりませぬ」
冴子は請け合った。