01-02.元連隊長、襲撃を受ける2
幼い日本人の少年は名を沖沢タモツといい、この世界で唯一確認されている転移からの転生者であった。
見た目は7歳男児だが、前の人生を60年生きて新たに赤ん坊から生まれなおしているために知識や経験は他の人間たちに勝る。
過去には現実世界の陸上自衛隊と、この異世界の自衛隊でともに連隊長を務めた経験も持っていた。
タモツの指示を受け、押井とシャザームは疑念を口にすることもなくそれに従った。タモツの戦闘経験を信頼しているためであった。
「イルマ! 動けるなら北側の射手たちの矢を<見えざる盾>で防いでくれ! 僕は南側の奴らを防ぐ!」
「わかった!」
イルマは次々に飛来する矢をすべて不可視の盾で撃ち落とした。タモツはイルマほどそれに習熟していなかったので全ては撃墜できなかったのだが。
「どうするの? 矢を防ぐのに精いっぱいで攻撃はできないけどー!?」
「ヴィーツが戻るまで持たせてくれたらそれでいいっ!」
タモツはイルマに怒鳴り返した。
やがて戦いは決着した。いくら撃っても矢が届かないとみるや南北の丘にいた射手たちは撤退した。
正面にいた連中はヴィーツが一人残らず火球で焼き払ってしまった。残酷なようだが、こちらも2人の戦士を殺されている。
後方に戦力を集中させた押井たちは人数的に有利になり、それ以上一人の死傷者も出すことなく山賊たちを撃退できた。
「随分手馴れているようだったな。このやり方で何度か隊商をえじきにして、味を占めていたのだろう」
部下を二人も失ったバルゴサのシャザームが苦々しそうに言った。
「交渉なんて考えずに、最初から焼き払えば良かったんだよ」
ヴィーツが自分の魔導を誇るように言った。
「たしかに。今考えたらそうしていたほうが良かったな」
キャラバンの主である押井はため息をつきながら判断ミスを認めた。
「まさか君たちの魔導の力がこれほどとは思っていなかったんだ。初歩の魔導を学んだだけだと聞いていたから」
「まあ、これらの技もいったんは知らないふりをして、魔導学院で一から学びなおさないとならないんだけれどね」
「知ってることを知らないふりするのって、なんかめんどくせえよな」
「まあ、それが僕たちに与えられた任務の一つだからね」
と、タモツは仲間である二人の子供たちを見やった。
シャザームの指揮で護衛の戦士たちは殺された二人を近くの林に埋め、簡素な弔いを行った。
それから、キャラバンは再び帝都カディッサを目指して進み始めた。