10-13.元連隊長、都市を焼く
ゾンビの群れをあらかたぶったおしたのち、タモツは90戦車をカリザトの戦車パークに転送して、それから街に火を放った。
「最初っから放火して置けば済んだ話じゃねえのーっ!?」
「念には念を入れてだよ。それに、戦っているうちに生存者が見つかるかもしれなかったし」
「ああ、そうねー。結局いなかったけど」
北の小国、城塞都市ライフェルは燃え上がった。
「火ってさー、なんか見ているとうっとりするよな?」
「え? いや、僕はぜんぜん」
ヴィーツとタモツは、都市がすっかり燃え上がるまでその火を見守り続けた。
「これ、全部燃え切るまでに三日三晩とかかかるんじゃねえの?」
「ゾンビが全部焼けちゃえばいいだけなんだけど、火加減が分からないから全部燃やしちゃおうよ」
「えー。じゃあ、交代で仮眠をとって見張るかー?」
そんなこんなで、タモツとヴィーツは都市がすっかり焼け落ちるまで、まる二日間交代で見張りを続けた。
転送術をらくらくこなすタモツは、自分の休憩の番にはカリザトやイズモに出かけて状況を説明し、ついでに食べ物と飲み物を持ってくるくらいの余裕まであった。
「もういーんじゃね? 鎮火させね?」
皮袋で出来た水筒から飲み物を飲んで、ヴィーツが言った。
「そうだねー」
タモツも干し肉をくっちゃくっちゃ噛みながらのんきに答えた。
それから二人で手分けして街中を探索して鎮火して回り、すっかり火が消えたことを確認してから二人はイズモに移動した。
「あー、つかれたー」
「おつかれー」
あらかじめ念話で連絡を取っていたアストランがタモツとヴィーツを出迎えた。その後ろから新日本共和国大統領木下ハジメが歩いてきた。
「おー、タモツ、ヴィーツ! 大変だったな」
「あっ! 大統領! お疲れ様ですっ!」
ハジメをいたく尊敬しているヴィーツは、びしいっと姿勢を正す敬礼をしてみせた。
「お、トヨトミくんっ。元気でやっとるかね?」
「はいっ! トヨトミ・ヴィーツ元気いっぱいでありますっ!」
「あれ、さっきつかれたって言ってなかった?」
「大統領のご尊顔を拝見して、疲れも吹き飛びましたっ!」
タモツが冷かすと、ヴィーツはまたびしいっと姿勢を正した。
「このトヨトミ・ヴィーツ、いずれは素敵な日本人女性と結婚して、日本人になりますっ!」
「あー、お見合い大作戦、うちのカナデに頼んでたっけ」
ハジメは思い出したように言った。
「そのことなんだけどさー、お前、今日から日本人な。新日本国政府にハナシ通しておいたから」