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01-19.元駐屯地司令、王宮を歩く

外交武官という新たな役職を得てトラホルン王宮にやってきた戸田冴子だったが、特にこれといってそれらしい仕事があるわけでもなかった。

新日本共和国の側から何かの外交問題の解決を求められるわけでもなく、トラホルン側からも何かを言われるわけでもなかった。

「王宮の暮らしには慣れましたかな、サエコ様」

特にすることがないので王宮の中を散歩がてら歩いていると、導士パバールとすれ違った。

「私はいったいここで何をしたらよいのかと困っています」

冴子は率直にパバールに言った。


中年から初老に近づいているこの魔導士は、幾度か冴子を助けてくれたことがあり、冴子は信頼を置いていた。

「あなたの役割は新日本国とトラホルンの橋渡しであると伺っております。それならば姫様たちと親睦を深められるのがよろしいかと存じます」

「姫様たちと、ですか。王からも日本語を教えるように頼まれてはおりましたが」

「王位に就かれる際には反対派も多かったですが、ギスリム国王は内政にも外交にも手腕を発揮されて、反対派の声を封じられました。ギスリム国王が将来退位されたのち、姫様たちが政治的な発言権をお持ちになる可能性も高いでしょう」


「王は男児を得るために第3夫人をお探しだったともうかがいましたが」

「そうですな。もしかしたらサエコ様が今頃第三のお妃であられたかもしれません。ギスリム様のお考えはわたくしめに全てわかろうはずもありませんが、自衛官から姫の夫を迎えた場合、その方が将来トラホルンの王位に付かれる可能性は無いとは言えません」

「! そうなのですか?」

「トラホルン王家500年の歴史の中で、姫の娘婿が王位に付いた例は3件ございました。もちろん、姫の従兄弟たちと王位を争うことになるでしょうが」


「そんな大事なことについて、国王は思い付きで決められているように思えてなりませんが……」

「ギスリム国王は人を驚かせるのがお好きです。しかし、決してただの思い付きで行動されるお方ではありません」

導士パバールは日本風に頭を下げて挨拶をし、冴子の前から立ち去った。


「……」

冴子はパバールの背中を見つめてしばし黙考していたが、気を取り直して後宮のほうへ向かうことにした。

散歩といいつつ、何かあった時にはすぐ動けるように建物内の配置を頭に叩き込んでいたのだが、それはもう終わったからだった。


「気まずいなあ……」

と、冴子はひとりごちた。あの夜のことを目撃してしまったため、シーリン王女とどう接していいのか分からなかった。

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