10-09.元連隊長、ライフェルに入る3
キューマル戦車は乗用車の法定速度並みのスピードを上げてライフェルの大通りを走り抜けた。
さほどの大きさではないライフェルだったので、王宮まではすぐに到着してしまった。
その間、戦車は10体以上のゾンビを引きつぶしており、魔法攻撃で周囲のゾンビを20体はやっつけていた。
(ふたりとも、戦車を降りるぞ。ここからは徒歩だ。王宮を探索する)
(えーっ。まじかよー。俺、いやだよーっ!)
(いこうヴィーツ。この国に何があったのかを確かめなければ帰れない)
タモツは念話と転送のスペシャリストとして己の技を磨いていたが、このように三者をつなぐ多人数念話の術式も編み出していた。
(えええ。いくのー?)
しぶるヴィーツをなだめすかしながら、タモツは率先して戦車を降りた。
アストランとヴィーツがその後に続いた。
「ヴィーツ、一番後ろについて後方を警戒してくれ。僕が先頭に行く。アストランは中央で自分の身を守って」
「りょーかーい」
ヴィーツはそう言って、アストランを先に行くように促した。
「こういう時、僕は無力だなあ。剣術でも習っておくべきだったか」
「それもいいかもね。じゃあ行くよ!」
タモツはちらりとアストランを見やってから、先頭に立って進んでいった。
王宮の中にもゾンビたちはいて、タモツは火球を放ってそれらを焼き払わなければならなかった。
「王宮の中を探索してもゾンビたちしか見当たらなかったらどうする?」
「ライフェルの都をまるごと焼き払うさ。ゾンビたちがカディールなどに流出しないようにね」
アストランの問いにタモツは答えた。
「後方異常なーし、よっと」
ヴィーツが定期的に報告してきた。
そして、タモツたち三人は王宮の二階、謁見の間に侵入した。
玉座の上には金髪で背の高い、痩せた男が豪奢な衣服を身にまとって座っていた。
「……クククッ。来ましたか、沖沢さん」
「!?」
タモツは驚愕した。見慣れない北方人の男が口にした言語が日本語だったからだ。
「何者だっ!?」
タモツは男に向かって叫んだ。
「吸血鬼、と言えば伝わりますでしょうか」
「吸血鬼!? なぜ日本語を話せる? お前は誰だっ!?」
タモツはまさか、と思いながらも重ねて尋ねた。
「僕ですか? 僕はかつて刈谷ユウスケと呼ばれていた魂です。このライフェル人の男の死体を依り代としてこの世に蘇った、かつてのあなたの友人ですよ」
刈谷と名乗った金髪の男は、愉快そうに笑って見せた。