10-08.元連隊長、ライフェルに入る2
ライフェルという国家は北方の果てにあるために、ラールの南西にあるトラホルンとは直接的な国交が無かった。
タモツも今まで噂に聞いているだけで、その実態をほとんど知らなかった。
歴史の古いカディールとは国交があるようで、カディール人商人の中にはライフェルとの行き来で生計を立てている者もいたようだった。
どんな国なのだろうと色々な想像をしてはいたのだが、まさかゾンビに襲われるとは思っていなかった。
「ああいう動く死体のことを、僕たちの世界ではゾンビって呼んでた」
タモツはライフェルの城門に向かって戻りながら、ヴィーツとアストランに向かって言った。
「え!? お前のいたニッポンって、あんなのが普通にいたの?」
「そうじゃないよヴィーツ、想像上の存在として、お話の題材とかになっていたんだ」
「何だか分からないけど、ああいうのをゾンビっていうんだね!? 気味が悪い」
アストランは走りながら震え上がった。
「戦車まで戻って、戦車で中に乗り付けよう。僕の知っているゾンビっていうやつは、生きている人間にかみついて、その噛まれた人間もゾンビに変えてしまうっていうものだったよ」
「まじかよそれ、まじかよ。かんべんしてくれよ」
ヴィーツが大慌てで言った。
「冗談じゃないよ。俺戦車の中から一歩も出ないからなっ!」
「ゾンビたちについては戦車で容赦なくひきつぶそう。アストラン、操縦を頼むよ。ヴィーツと僕は魔法で周囲のやつをやっつける」
「わかった。操縦は任せて」
「攻撃魔法を使い放題か! やってやるぜ」
戦車に乗り込むとタモツは車長席から魔晶石を稼働させ、キューマルにエンジンをかけた。
「戦車、うごくよっ!」
アストランが大声で叫んだのがかすかに聞こえてきた。
「おうよっ!」
(アストラン、頼んだっ!)
タモツは念話でアストランにゴーサインを出した。
異世界自衛隊90式魔導戦車はライフェル城に向かって発進した。
グルゥウウウウウッ!
というキャタピラ音をたててキューマルはライフェル城門を突破し、時速50キロオーバーで突撃した。
(いっくぜえええっ!)
ヴィーツが念話を送ってよこした。
砲手席に着座したヴィーツは、魔導の攻撃をわざわざ戦車の主砲を通じて発射するという芸当をしてのける。
もしかしたらだが、戦車の外に顔を出すのが本気で怖いのかもしれなかったが。
タモツは車長席のハッチをあけて上半身を外に出し、ヴィーツからは狙いにくい周辺に群がるゾンビを狙い撃ちにしていった。
これは本来、戦車に随伴する歩兵が戦車を守る目的で処理するような相手だったが。
(アストラン、大通りを全速前進。向かうはライフェル城王宮)
(了解っ!)
タモツの念話に、アストランは力強く返してきた。