10-07.元連隊長、ライフェルに入る
90式戦車を転送門に通すにあたって、戦車を移動させるのではなく転送門の方をぶつける、という方法を提案したのはヴィーツだった。
それを実践するのは今回が3回目だったが、問題なく転送に成功した。
タモツとヴィーツ、それからアストランの3人は90式戦車を雪の降り積もる平原に置き去りにしたまま、徒歩でライフェルの城塞都市に向かって行った。
タモツは、ふと違和感を覚えた。
ライフェルという国、その王城である城塞都市に来たのはこれが初めてであった。だが何かがおかしい。
まず、城門を警備する人間がいない。そして、遠くからでも分かるが、人の気配というものが一切しない。
炊事の煙なども見えず、人の声や車輪の音なども聞こえてはこない。
「なんなんだ。なんか不気味だな」
ヴィーツもその違和感に気づいたらしく、気持ち悪そうに言った。
アストランは冷静な表情で、何も口にしなかった。
「とにかく中に入ってみよう。望星教団の教祖を捕縛して教団を解散させることができるなら、無用な血は流したくない」
そう言ったタモツ自身があまりその可能性を信じてはいなかったが、とりあえず一応話し合いは試みてみるつもりだった。
「あ」
アストランがそれに気が付いた。
城門をくぐって大通りをまっすぐ歩いていた彼らのほうに、ゆっくりと近づいてくる人影があった。
足を引きずるような歩き方をした、ぼろぼろの衣服を着た女性のようだ。
乞食だろうか? とタモツは思った。
が、その女はタモツたちから三メートルほどの距離に近づくと、突如動きの速さを増してアストランに迫った。
「シャアアアアアッ!」
大きく口を開けて、アストランの肩口にかぶりつこうとするように迫ってきた。
「火球よっ!」
ヴィーツが素早く反応し、手のひらから火の玉を放出してアストランを守った。
「ぐぁあああっ!」
顔に火球をぶつけられた女は後ろにのけぞって倒れ、顔を抑えて地面に転がった。
「なんなんだこいつ……」
ヴィーツはいぶかしそうに吐き捨てた。
「ヴィーツ、アストラン、気をつけろ! 何人もいるぞっ!」
女の後ろから一人、それに、いつの間にか反対側の路地にも三人いた。
いずれも動作はのろのろとしていて、顔には生気がなく何もしゃべらない。
「タ、タモツ……」
アストランが震える声でタモツを振り返った。
「この人たち、もしかして死んでいるんじゃないか?」
「なんだって!?」
タモツは驚いた。
「魔導の力で動かされているってこと? それなら君が触れたら動きを停められるんじゃないか」
「や、やってみる」
アストランはヴィーツが顔を焼いた女の足に恐る恐る触れてみたが、動きが止まることはなかった。
「だめだ。魔導とは別の力で動いているのかもしれない。でもなんかおかしいよ。この人たちは息をしていない」
「なんだかわかんねえけど、もう死んでるんだったら遠慮するこたぁねえなっ!」
ヴィーツは爆炎の術式を組んで、三人の生ける屍を巻き込んで発動させた。
動き回る死体は爆散した。
反対側の、もう一人の新手にはタモツが火球を叩き込んで燃やした。