10-06.元連隊長、ライフェルを目指す
沖沢タモツは戸田冴子と二人だけで結婚式を挙げた。披露宴は行わなかった。
肉体年齢は12歳になったばかりのタモツであったが、前世の記憶があるということで周囲もそれを問題にしなかった。
タモツは半年間で90式戦車の魔晶石駆動型を5輌作成し終えていた。
カディールからライフェルまでの道のりをタモツは馬で行き、ライフェルの王城が見える位置で馬を放した。
そして転送門の術式を開いてカリザトへと一度帰った。
「ライフェルを相手に戦争を仕掛けるつもりかね?」
錬金術師ライラスは思わず言った。
「これはテロとの戦いです」
タモツは言い切った。
「トラホルン女王、バルゴサ女王、そして新日本共和国大統領の認可を得ています」
「三国家連合の先兵として君がライフェルと戦うということだぞ、これは」
ライラスは渋い顔をした。
「専守防衛という異世界自衛隊の理念を君は、そして新日本国は捨てるのかい?」
「ギスリム国王暗殺のような悲劇を二度と繰り返させるわけにはいきません。それに、多くの人がすでに犠牲になっている。望星教団は危険だし、それを庇護するライフェルも同罪だ」
タモツは強い口調で言った。
「タモツ、僕は残念だよ。それが実情だとしても、君は理想を捨てるんだね」
アストランもライラスの横で弱々しく首を振って見せた。
「でもよ、だったらどうしたらいいっていうんだよ。話し合いでどうなる相手でもないだろ? 相手は邪教の教信者たちだぜ」
ヴィーツはタモツの後ろから二人をとがめた。
「あなたたちのしていることは悪いことですーっ、もうやめてくださーいっ! って言って、通じる相手か?」
ライラスとアストランは言葉もなく黙り込んだ。
「死者を蘇らせるだか何だか知らねえけど、その信仰のためなら人殺しも辞さない連中なんだろ? もう力でたたき潰すしかねえじゃねえか。それで抵抗するなら殺すしかねえだろ?」
ヴィーツは吠えるように言った。
「僕とヴィーツ、あともう一人、90式戦車を運用するためには欲しい。ライラス先生かアストラン、できたらどちらかに一緒に来て欲しかったんだけど」
「……」
ライラスは口をつぐんだ。この半年間でライラスも90式戦車の構造には熟知していて、操縦方法も習得していた。
「僕が行こう。ライフェルに戦争を仕掛けるようなこの行動に納得しているわけではないけれど、望星教団のありかたを肯定もできない。僕は何を担当すればいい?」
「操縦手をお願いできるかな。砲手はヴィーツに頼みたいから」
「よっしゃ!」
ヴィーツは右の拳を固めて、左の手のひらを叩いた。
「わかった。戦車の操縦は一通り覚えたつもりだ。いこう、タモツ。世界の平和のために」
アストランは言った。