10-03.女王警護官、プロポーズされる
その日の夜、シーリン女王から与えられた後宮の寝所で戸田冴子は沖沢タモツからの念話通信を待っていた。
お互いに生活が安定して以来、毎晩のようにタモツは念話による連絡をくれる。
そんな毎日に充実したものを感じていた冴子だったが、シーリン女王から脅すように言われて、いささか不安になってしまっていた。
(サエちゃん、本日もお疲れさまでした)
タモツは転生してから少しだけ性格が変わったような気がしていたが、冴子に対する優しい気づかいは昔のままだ。
(タモツ、そちらはどうだ? 魔導戦車の開発は順調なのか?)
(問題ないよ。もう魔晶石駆動に改造した90式はこれで三台目になった。ヴィーツの操縦も上達したし)
(そうか。それは良かった)
冴子は受け答えをしたが、どう切り出したらいいか分からなかった。
(……どうしたの? なにか浮かないことでも?)
(ああ、いや、昼間シーリン女王と話していてな)
冴子は覚悟を決めて言った。
(その……、タモツとの結婚はどうなっているのかと問われたのだ)
(結婚かあ。僕の方はすぐにでも構わないんだけど)
(!!)
予想外の答えに冴子は驚いた。
(あ、いや、そうでも言わなければならないように誘導してしまったなら謝るぞ、タモツ)
(? なんで?)
(その……、私たちはなんというか、年も離れているし)
(前にも言ったと思うけど、それなら前世の僕とサエちゃんのほうがよほど離れていたじゃない)
(男のほうが年上なのと女のほうが年上なのとでは事情が違うだろう)
(なんでさ)
(なんでと言われても、その、子供を作れる年齢とかいろいろとだな)
(サエちゃんは子供が欲しいの?)
(正直、あまり本気で考えたことが無かった。自分自身が誰かの母親になるというのは)
(そうかー。必ず子供を作らなければならないってこともないと思うけどね)
(タモツはどうなのだ? 現世での娘さんのこと、時々思い出すか?)
(いや、正直もうほとんど忘れてしまったよ。薄情なものだね。こちらの世界になじんでしまって、現実世界でのことは夢だったような気さえするんだ)
(そうか……)
(僕は僕で、まだ自分が肉体的に子供だから遠慮していたこともあるんだけど……)
(なんだ?)
(戸田冴子さん、僕と結婚してくれませんか?)
(!!)
(出来たら念話ではなくて直接会って伝えたかったんだけど、言うなら今なのかなって思って)
(……わたしでいいのか、タモツ?)
冴子は恐る恐る確認した。
(あなたがいいんだ、冴子さん)
タモツは力強い念を送ってきた。