10-01.女王護衛官、女王と話す
謁見の間での応対を終えたのち、シーリン女王は後宮に下がって食事をとって休んでいた。
「ほぼつねに私と一緒に居て気づまりではないの、冴子?」
「そのようなことはありませんよ、シーリン様」
二人だけのとき、戸田冴子はシーリン女王陛下をシーリン様と呼ぶようにしていた。本人のたっての希望によるものである。
「それにしても冴子、私もいずれロトムとの間に子をなすことになると思うけれど、あなたとタモツの間はどうなの?」
唐突にシーリンが口にした言葉に、冴子は思わず口に含んでいた茶を吹き出しそうになった。
「な、な、なにをおっしゃいますかシーリン様っ!」
「え? わたし、何か変なことを口にした?」
「タモツはまだ11歳ですよ!」
「男の11はまだ男女の営みには早いのかしら? 私はよく知らなくて。私はそのころにはもう月のものは降りてきていたけれど」
「そ、そういうことではなく」
冴子は茶をのどに詰まらせてむせた。
「その……、もし肉体的に可能だとしても、子供を相手にそういうことをするのはちょっと……」
「あら、タモツの心は71なのでしょう? 前世ではどうだったの? タモツはあまり冴子を求めてこなかったの?」
「いや、その、それは、多少は……ありましたけれども」
「あら、それはよかったこと」
シーリンは真顔で言った。
「私自身は男はロトムしか知らないし他の男とそういうことをしたいとは思いませんけれど、他人の場合がどうなのかについては実に興味があるのです」
「ええっ!? そ、そうなのですか?」
シーリンはどうも、男女の営みというものを知って以来、それそのものをなんだか不思議で面白いものだと考えるようになったようだった。
「私は侍女たちから人並みに夜伽に関する習いを受けましたけれど、こういうものは剣技や学術と違って人と競ったり比べる場がないでしょう? 本当にこれが正解なのかとか、改善の余地があるのかとか、そういうことをついつい考えてしまうのです」
「はあ……、おっしゃりたいことはわかるつもりです」
シーリンには生真面目で学者気質なところがあるのだが、このごろは男女の夜の営みについてその関心が向いているらしい。
「その、わたくしが考えますに、ロトム様とシーリン様はお互い愛し合って、国民に祝福されて結婚し、ふしどを共にされることになったわけです。夜の営みについて互いに大きな不満が無いのであれば、なにもそう……お気になさることはないのではないかと。これ以上ない幸福なお二人でありましょう」
「まあねえ」
冴子のいいぶんに、シーリンはうなずいた。