09-20.元連隊長、90式魔導戦車を完成させる
ヴィーツがトヨトミ姓を名乗ってから三か月後、タモツたちは最初の90式戦車を魔晶石駆動させることに成功した。
ヴィーツはキューマルの操縦席に乗りこみ、戦車隊員から操縦の仕方を学んでいた。
ヴィーツも戦車隊員も互いの言語が今一つだったので、意思の疎通には苦労したようだったが。
飲み込みよく、ヴィーツはすぐに戦車の基本的な操縦法を覚えてしまった。整備工場から戦車を出して、戦車パークをぐるっと回ってまた元の位置に戻ってくることくらいは簡単にやってのけるようになっていた。
ライラスは魔晶石強化のための理論を構築するために忙しく、自分で作った小さな魔晶石を何度も魔素融解させながら、魔素の密度を高くするための実験を繰り返していた。
アストランは90戦車の構造について学び、将来的には整備に加われるようになりたいと言っている。
ただ、戦争の道具である兵器に携わることに関しては、彼の中で少し葛藤があるのではないかとタモツは見ていた。
アストランは異世界自衛隊が掲げる専守防衛の理念については深い興味を示した。
「ギスリム国王と森本モトイ前大統領とは、どうも異世界自衛隊が強大な力をもって、世界の戦争を取りしまるような方向でことを進めようとしていたんじゃないかと僕は思っているんだ」
タモツは休日にアストランに向かって言った。
「強力な軍事力で大陸を統一して、平和をもたらすということかい? でもその前に血が流れるだろう」
「確かにね。僕たちがいた別世界ではアメリカという強大な国が、世界の争いに介入して強力な軍事力で争いをやめさせるということをしていたよ。街の喧嘩に衛兵が割って入るようなものだけれど、衛兵がそのどちらかの肩を持つんだ」
「そんなやり方でうまくいくとは思えないな。味方してもらえなかった方の恨みを買うんじゃないのか?」
アストランは疑念を呈した。
「それがね、しばしば味方してもらえたはずの方の恨みも買うことになったんだ。結局は、他人を支配したいために行った行動じゃないいかって疑いを向けられて反感を買ってね。そしてテロというやりかたで反則的な攻撃を向けられることになった」
「テロってなんだい?」
「そうだな。真正面からの勝負ではなくて、凶行に及ぶことかな。兵士同士の戦争ではなくて、いきなり爆槍を落としにかかるような」
「手段を選ばない攻撃ということか。そもそも異世界自衛隊という反則的な兵力を持ったから、トラホルンはアガシャー王から爆槍というテロ攻撃を受けることになった。そうとも言えるんじゃないのか?」
アストランは新日本共和国やトラホルンが他国を圧倒する軍事力を手にしたときに、いつかテロを呼び込むようになるのではないかと危惧しているようだった。