01-18.元特務隊長、驚く
トラホルン国からその提案が上がってきたとき、木下ハジメ大統領はまず、ひたすら驚いた。
伝令としてやってきたのはパバール配下の魔導士で、ハジメたちが駐留するイムルダール駐屯地まで馬と船を使ってやってきたという。
「ご提案はたしかに承ったが、その……、ギスリム国王は本当に本気なんですか?」
「王はシーリン第一王女の夫に自衛官を迎えたいと本気でお考えです」
「王位継承権とかの問題はどうなるんですか? 大変失礼なのは承知できくのだが、妾腹、しかもバルゴサの血筋を引く身で王になったことだけでも異例なのに、娘の婿に別世界の人間をすえるなど、国民が納得するのでしょうか?」
ハジメは派遣されてきた魔導士に向かって質問した。
「わたくしには何とも申し上げられません。王にはなにか深いお考えがあってのことと思うだけです」
「まあ、あなたにしてみりゃ問い詰められても困るよなあ。導士パバールと念話で話すことはできませんか?」
「かしこまりました。導師に念を送ってみましょう」
中級魔導士がパバールに向かって念話を送信すると、ほどなくハジメの心の中にパバールの声が聞こえてきた。
(お久しぶりです。キノシタ・ハジメ大統領)
(おっと。これが念話ってやつだな。噂には聞いていたが戦時の連絡に使えたらすごく便利だな)
(我々白魔導士は戦いに積極的に参加することを禁じられておりますゆえ)
(そうだった、そうだった。それはさておき、シーリン第一王女の婿選びのために王都で武術大会を開催するっていう案は、それ、本気でやろうっての? 自衛官たちを集めて?)
(王はトラホルンと自衛隊、新日本国とのさらなる友好を求めておいでです。それこそ永続的な同盟関係を)
(にしたってさあ、娘を賞品みたいにするのってどうかと思うよ俺は)
(王家の娘に生まれた以上政略の道具になることは必然。王はこのようにお考えのようです)
(この世界じゃそんなもんなの? 姫様のほうは納得しているわけ?)
(表立っては拒否しておられません)
(ふーん、そうなんだ……)
こんな話、カナデが知ったらどう思うんだろうな。と、ハジメはちらっと脳裏で考えたが心の声には出さなかった。
(トラホルン国王からの正式な打診ってことなら、こちらも拒否はできねえな。以前の会談で娘の婿を自衛官からとろうなんて言って笑っていたけど、あれはてっきり冗談だと思っていたぜ。武術大会ねえ……)
(そのようなわけですから、新日本国から希望者を募って王都ボルハンの劇場まで集めていただきたいのです。開催日時はのちほど話し合うということで。それでは失礼いたします)
上級魔導士パバールからの念話は打ち切られた。