09-16.元連隊長、遺跡に行く5
浮遊城の最高スピードが時速にしてどのくらいなのかタモツにはハッキリわからなかったが、200キロとかそのくらいではないかと思われた。現実世界で自家用車に乗っていた時に、高速道路で時速100キロは出したことがあったが、その二倍くらいかと考えた。
身体にかかるGなどから考えて、ジェット戦闘機のような世界ではないだろう。
操縦を変わってくれとヴィーツがうるさいので、タモツは仕方なく交代してやった。
<新たな操縦者を登録しますか? 操縦権を委任しますか?>
「操縦者の追加登録。ヴィーツ」
タモツは宣言して、ヴィーツと席を変わってやった。
「どうすんのこれ? 手のひらを当てればいいのか?」
ヴィーツはわくわくしながら操作盤に手のひらを当てた。
<新たな操縦者を登録しました。ヴィーツ>
ヴィーツは少ししょんぼりしたように言った。
「やっぱりこういう時、家名が無いと今一つだよな」
孤児出身のヴィーツは家名を持たない。ただのヴィーツであるということをちょくちょく気にしているようだ。
「勝手に名乗ったらだめなものなの、それって?」
タモツは素朴な疑問としてたずねてみた。
「やっぱりいわれとか、そういうのが無いとだめだろー。俺、任務を終えたら王様から家名をつけてもらおうと思っていたんだ」
ヴィーツは寂しそうに言った。
「任務達成の褒美として王様からもらった家名だったら子孫に誇れるだろ? 自分で勝手に名乗るよりはさ」
「そうかー……」
タモツは少し考えてから言った。
「じゃあ<竜殺しのハジメ>にお願いして、日本風の家名をつけてもらうのはどう? ハジメなら頼めば心よく引き受けてくれると思うけど。ハジメも新日本共和国大統領だし」
「!! 本当かっ!? それなら俺はとても嬉しいぞっ!」
ヴィーツは気を取り直して、ノリノリで城を操作し始めた。
「全速前進! そのまま右に平行移動!」
「わーっ! やめろよヴィーツ。なにやってるんだ!」
アストランがヴィーツに怒鳴った。
「敵の攻撃をとっさに回避しながら接近している想定で……」
「どの勢力の誰と戦うんだよっ!」
「そんな状況になる前に戦闘を回避してもらいたいものだね」
錬金術師ライラスが苦笑いをしながら言った。
「なあ、今思いついだんだけどさー。これって滝を昇るみたいに空をかけ上がった後、ぐるっと宙返りできると思う?」
「やめろーっ!!!」
「絶対にやめてくれよヴィーツ、それは絶対にやめてくれよ」
「とんでもないことを思いつくなヴィーツは」
タモツは苦笑した。