09-15.元連隊長、遺跡に行く4
「おいおいマジか、おいマジかこれ」
ヴィーツが眼前のスクリーンに投影された外部の映像を見ておののいた。
「本当に、俺たち飛んでるの?」
「どうやら本当のようだね。今、この浮遊城は空中に浮いているんだ」
アストランはヴィーツに向かってうなずいた。
<――――オキザワ・タモツ、――――>
浮遊城の中枢が何かを言った。
タモツはライラスのほうを見た。ライラスは額に手を当ててしばらく考え込み、
「使用者の言葉を見つけました。オキザワ・タモツ、言葉の組みを変えますか?」
ライラスはまた自信がなさそうだった。
タモツはしばし考えて、もしかしたらコンピュータOSの言語変更のようなことを言っているのかと思った。
「トラホルン語に変更」
と、タモツはトラホルン語で試しに言ってみた。
<――――、管制言語をトラホルン語に変更します。操作者の脳から言語構成を捜査します>
アストランとヴィーツがぎょっとして操作盤のほうを見た。ライラスは相当に衝撃を受けたようだ。
「この浮遊城が作られた当時にトラホルン語なんてなかったはずなのに!?」
「どうも、僕の脳から言語情報を引き出して一瞬にして辞書を構築したようですね。これって日本語にもできるんだろうか?」
タモツは制御盤に手を当てて、
「管制言語を日本語に変更」
と言ってみた。
「管制言語を日本語に変更します。操縦者の脳から言語の構成をスキャンします」
と、きれいな発音の日本語が管制室に聞こえてきた。
「これはすごいな。津軽弁とか琉球弁って指定したらやってくれるのかなあ」
「いつまでも遊んでないでさあ、タモツ! ちょっと城を移動させてみてくれよ」
ヴィーツがいらだって言った。
「わかったー!」
タモツは操作言語をトラホルン語に戻してから、制御盤に手を置いて、
「微速前進!」
と叫んでみた。
城が動いているのかどうか体感ではわからなかったが、モニタに映し出される映像は移動していた。
「すっげ! 動いた動いた!」
ヴィーツがはしゃいで言った。
「つぎ俺にやらして! つぎ俺!」
「高速運航もテストしてみるか……。新日本共和国からなるべく見えないように西に移動しよう」
タモツは東に向かっていた城を右回りに反転させた。
「最大速度を試す! みんな何かに掴まって! 全速前進っ!」
城はさして揺れることもなく、その運航速度を増し始めた。
「うわああああっ!」
ここまで冷静だったアストランが悲鳴を上げるほど、城はその速度を上げた。
正面スクリーンに映し出される映像の隅で雲の切れ端がすごいスピードで流れ去っていった。