09-12.元連隊長、遺跡に行く
シーリン女王に三人を紹介して正式にトラホルン王宮付きの魔導士として雇ってもらった10日後に、タモツは休暇を取って遺跡へと跳んだ。
同行したのは錬金術師ライラス、破魔導士アストラン、そして護衛の魔導士ヴィーツであった。
ハジメから聞いていた付近に魔導の目を飛ばして付近を探索し、すでに座標については確認してあった。
人気のない場所で転送門の術式を使い、四人は次々とそれをくぐった。跳んだ先に水晶のような材質で出来た大きな城があった。
「これが、浮遊城……?」
アストランが息をのんで言った。
「思っていたより大きいな」
ライラスも感嘆したように言った。
「早く中に入ってみようぜ!」
ヴィーツは言うが速いか、地面に埋まっている側から城の入り口に向かって登り始めていた。
城の入り口から侵入するとすぐ、セキュリティシステムが警告音のようなものを鳴らし、古代イムル語と思われる女性の声が聞こえてきた。
「……許可された人だけが入ることができます。証をかざしてください」
錬金術師ライラスが翻訳した。
「と、言っているのだと思う。ちょっと自信がないけれど」
「おそらく当たっていると思いますよ。アストラン、この装置を黙らせることはできる?」
「古代文明の道具はまた復活すると思うけれど、一時的に停止させることなら」
アストランは見えない壁に近づいて手をかざし、破魔の力を開放した。
魔素融解の時に似た、魔素の構成が壊れていくのがタモツには見えた気がした。
「終わったよ。これでここを通過できるみたいだ」
アストランはさきほどまで見えない壁があった通路を一歩先に歩いてみた。
「さっすが、アストラン先輩っ!」
「アストランでいいよ、ヴィーツ。もう先輩じゃなくて同輩だ」
アストランはヴィーツを振り返って笑った。
それから四人はいよいよ浮遊城の中に入り、各所を探索した。
驚いたのは、まずトイレであった。小さな個室に、中央に穴の開いた玉座のようなものがあったのだが、発見したアストランはそれが何かわからずに困惑していた。
タモツはすぐに洋式便座を思い浮かべたので、試しに持っていた紙を小さくちぎって中に放り込んでみた。
「なになに? なにがあったの?」
ヴィーツがライラスを伴ってやってきたが、タモツが便座と思わしき椅子の穴に落とした紙は、奥の方で消失した。
「今、魔素が発生したのを感じた! これは、用便を足すと排泄物を魔素に変換する装置なのか!?」
ライラスは心底驚いたようだった。